非定型的乳房切除手術

非定型的乳房切除手術(Non-standard Mastectomy)は、一般的な乳房切除手術とは異なる手法や適応を持つ乳房の外科的切除方法を指します。通常の乳房切除手術は、乳がん治療の一環として行われ、がん細胞が再発するリスクを抑えるために、乳房全体や一部を取り除く手術が一般的です。しかし、非定型的な手術は患者の病状や個々の希望、あるいは医療チームの判断により、より特殊な方法で行われる場合があるため、異なる手術手法や適応範囲が含まれます。

以下に、非定型的乳房切除手術に関する概要、手法、適応、およびメリットとデメリットについて詳述します。

1. 非定型的乳房切除手術の概要

非定型的乳房切除手術は、主に以下のようなケースで適用されます:

  1. 高リスク患者への予防的乳房切除:遺伝的要因(BRCA1/BRCA2変異など)や家族歴により乳がんのリスクが高いと判断された場合、予防的に乳房を切除することがあります。この手術は、乳がん発症リスクを大幅に低減するための選択肢として提供される場合があります。
  2. 部分的乳房切除術(乳房温存手術):がんが小さく、乳房内の特定の部位に限定されている場合、がん細胞を含む範囲のみを切除し、できるだけ乳房の形を温存する手術が選ばれることがあります。
  3. 皮膚温存乳房切除術:乳房の皮膚を温存し、腫瘍と乳腺組織のみを除去する手術です。術後に再建手術を行うことで、より自然な乳房の形状を維持することが期待できます。
  4. 乳頭温存乳房切除術:乳房の皮膚とともに、乳頭および乳輪も温存する手術です。これにより、乳房再建時に自然な外観を維持しやすくなります。ただし、乳頭下にがんが存在する場合は、適用できません。

これらの手術は、通常の乳房切除術とは異なり、乳房全体を切除せず、部分的な切除や皮膚、乳頭などの構造を温存することが特徴です。患者の希望や心理的影響を考慮しつつ、乳がんの根治と美容的な面を両立することが目指されています。

2. 各手術法の詳細

2.1 予防的乳房切除術

予防的乳房切除術は、乳がんのリスクを事前に低減するための手術であり、主にBRCA1およびBRCA2遺伝子変異を持つ患者が対象となります。一般的に、乳がん発症リスクが非常に高いと診断された患者に対して提案されます。この手術の選択により、乳がんリスクを90%以上低減できるとされています。

予防的乳房切除術は、患者にとって心理的な負担が大きいため、医師やカウンセラーと十分に相談し、納得のいく形で手術の可否を決定することが重要です。また、再建手術の選択肢も提供され、患者の身体的・心理的な回復を支援することが求められます。

2.2 部分的乳房切除術(乳房温存手術)

部分的乳房切除術は、乳がんが乳房の一部に局在している場合に行われる手術です。腫瘍とその周囲の正常組織を一部除去し、残りの乳房を温存します。手術後には、放射線治療を併用することで再発リスクを軽減します。

この手法の利点は、乳房の外観を保つことであり、特に患者のQOL(生活の質)に対して大きな影響を及ぼすとされています。ただし、がんが広範囲に広がっている場合や、再発のリスクが高い場合には適用が難しい場合もあります。

2.3 皮膚温存乳房切除術

皮膚温存乳房切除術では、乳房の皮膚をできる限り残しつつ、乳腺組織や腫瘍を除去することが行われます。この手術法は、術後に乳房再建を行う際に自然な乳房の形を維持することが可能です。皮膚温存手術は、乳房再建手術を同時に行うことで、患者の外観上の満足度を高める効果が期待できます。

皮膚温存乳房切除術は、美容的な観点から患者に人気がある手術ですが、がんが皮膚に近い場合には適用が制限されることがあります。

2.4 乳頭温存乳房切除術

乳頭温存乳房切除術では、乳房の乳頭および乳輪の部分も温存されます。この手術法は、美容的な利点が非常に高く、乳房再建後の見た目に対する満足度が高いとされています。ただし、乳頭の下にがん細胞が存在する場合や、乳管内のがんが広がっている場合には適用できないことがあります。

3. 非定型的乳房切除手術の適応とリスク

非定型的な乳房切除手術は、患者のライフスタイルや心理的影響を考慮し、医療チームと患者が協議して適応が決定されます。以下のような要因が影響することが多いです:

  • 遺伝的リスク要因:特にBRCA1/2遺伝子変異がある場合、予防的乳房切除が推奨されることがあります。
  • 腫瘍の大きさと広がり:小さく局所に留まるがんの場合、部分的乳房切除が可能です。
  • 再建手術の希望:乳房再建を考慮する場合、皮膚温存や乳頭温存の手術が適しています。
  • 患者の心理的負担:見た目や術後の生活の質を考慮し、患者が納得できる形での手術法が選ばれます。

ただし、非定型的な手術にはリスクも伴います。例えば、温存手術ではがんの再発リスクが通常の切除よりも高くなる可能性があり、放射線治療や再発リスクのモニタリングが必要です。また、予防的切除に関しても、100%のがん予防効果は期待できないため、慎重な判断が求められます。

4. 非定型的乳房切除手術の利点と欠点

利点

  • 美容的な満足度が高い:部分的または温存的な手術は、乳房の形状を保つことができ、患者の見た目に対する満足度を向上させます。
  • 心理的負担の軽減:乳房を完全に失わずに済むため、心理的な負担が軽減される傾向があります。
  • 再建手術との併用が可能:皮膚や乳頭を温存することで、再建手術の選択肢が広がり、より自然な形での再建が可能です。

欠点

  • がん再発リスクの増加:乳房温存手術では再発リスクが完全には排除されないため、定期的な検診や放射線治療が必要です。
  • 適応の制限:腫瘍の位置や広がりによっては、温存手術が適用できないことがあります。
  • 術後の合併症:温存された乳頭や皮膚に合併症が生じる可能性があります。

5. 非定型的乳房切除手術の将来展望

非定型的乳房切除手術は、がん治療における新しいアプローチとして注目されています。特に、再建技術の進歩や遺伝子検査の普及に伴い、患者一人ひとりに合わせた治療法が選択できるようになっています。

以上、2024年10月記載

手術――非定型的乳房切除手術

乳房を全て切除する手術です。腋窩リンパ節は郭清しますが、大胸筋は残せるので、胸がえぐれることはありませんし、腕も普通に動かせるようになります。

通常は大胸筋も小胸筋も残す

乳房温存療法が適応できないとき行われる手術の中での標準的な手術法が非定型的乳房切除手術と呼ばれるものです。リンパ節の郭清は行いますが、大胸筋は残します。長い間、大胸筋も小胸筋も切除するハルステッド手術が標準的治療法(定型的乳房切除術)であった歴史的経緯から、このような名前で今も呼ばれています。

小胸筋については、切除する方法と残す方法がありますが、通常は大胸筋も小胸筋も残す方法が行われています。

最近はひどく進行した段階で乳がんが発見される率は少なくなっていますが、中には大胸筋まで広範囲にがんが浸潤しているケースもあります。その場合には、大胸筋の切除も行われることになります。結果としてハルステッド手術と近い手術法になることもゼロではありませんがいわゆるハルステッド手術は過去の遺物といえる状況になっています。

なお乳房切除をする場合でもリンパ節転移の可能性が少ないと予想される場合はセンチネルリンパ節生検を行なって、腋窩リンパ節郭清を省略する試みも最近は始まっています。

抗がん剤の投与で乳房温存が可能になる例も

乳房内に広汎に微小石灰化があるときや、切除した組織の断端にがんがどうしても残る場合は乳房温存療法ができないため、乳房切除手術をすることになります

がんが大きいときも、切除する範囲が広くなるので、乳房を温存したとしても、残される乳房が美容的ではないため、乳房切除を行い、そのあと乳房を再建したほうがよいと考える人も多いことでしょう。

しかし、発見したとき、すでにⅡ期の後半やⅢ期で、がんが大きい場合であっても、先に抗がん剤を投与することによって、がんを小さくすることが多くの場合可能です。ですから、単純にしこりが大きいために乳房温存が不向きな場合は術前抗がん剤という方法によって乳房を残せる場合も少なくないので、主治医と相談して乳房を温存する可能性をさぐってみてもよいでしょう。

 

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センチネル(見張り)リンパ節生検

乳腺の組織にはリンパ管がネットワーク状に張りめぐらされており、乳腺内に発生した異物などはこうしたリンパ管を通じて、腋窩にある見張りリンパ節(センチネルリンパ節)に注ぎこまれます。ここからさらにリンパ節がネットワーク状に分布されており(腋窩リンパ節)、生体にとっての異物が処理されていきます。このため乳房に発生したがん細胞もリンパ管を通じてセンチネルリンパ節に集められ、さらにそこから周囲のリンパ節にも運ばれ処理されます。リンパ節ががん細胞を処理できれば問題ありませんが、処理しきれなければ転移が成立します(リンパ節転移)。このためセンチネルリンパ節に転移があれば他のリンパ節にも転移がある可能性が高く、センチネルリンパ節に転移がなければ他のリンパ節はまず大丈夫と考えられます。このような考え方は、【センチネルリンパ節の仮説】と呼ばれ、かなり真実に近いと思われています。 今日の乳がん治療の論点のひとつに腋窩リンパ節をどのように取り扱うかという問題があります。

腋窩リンパ節郭清(伝統的な方法)

転移の可能性のある腋窩リンパ節(小胸筋の内縁まで)を完全に(系統的に)切除する方法で通常10~30個程度のリンパ節が切除されます。

○腋窩リンパ節転移の有無の診断および治療(局所コントロール)のためには最も確実な伝統的方法です。
×合併症として、上肢のむくみ、腋の違和感、感覚低下などが一定の頻度で起こります。他覚的な上肢のむくみの発生頻度は10~20%程度とされています。

乳房内に注入されたアイソトープと同定されたセンチネルリンパ節(リンフォシンチグラフィー)

センチネルリンパ節生検(新しい方法)

色素や放射性物質を腫瘍の周囲または乳輪部に注入し、その物質が最初に注がれるリンパ節(センチネルリンパ節/通常1~2個=最も転移がみつかる可能性の高いリンパ節)だけを見つけ切除する方法。術中の迅速病理診断で転移が見られれば、腋窩リンパ節郭清に切りかえます。 現在都内の主要施設では適応のある患者さんにとっての第一選択の治療であり、伝統的なリンパ節郭清を最初から選択することは少なくなっています
後遺症が非常に少ない方法です。腕のむくみはまず起きないとされています。

虎の門病院でのセンチネルリンパ節生検法の実際について

1)RI法と色素法の併用法で行う場合と色素法単独で行う場合があります
RI法  使用するトレーサー  99mTc‐フチン酸
ガンマプローブ    Navigator
色素法 使用する色素     インジゴカルミンまたはパテントブルー
2)全身麻酔で乳房の手術と一緒に行う場合が一般的ですが、術前に化学療法を行う方は局所麻酔でリンパ節生検だけを行う場合があります
3)リンパ節の病理検索はホルマリン固定後2mm全割にて検索します。術中迅速診断にて転移ありと診断されれば、リンパ節郭清をその場で追加します。免疫染色での検索は組織型などの要因により追加します。

A;対象となる方の条件
A-1 あらかじめ腋窩を触診、超音波、CT等で検索しリンパ節転移の疑いがないことが第一条件となります。
A-2 しこりがかなり大きい人の場合はリンパ節に転移している可能性が高いため(検査前確率が高いという表現をします)除外したほうが無難とされています。
A-3 乳房温存手術、乳房全摘手術に関わらず、センチネルリンパ節生検の対象としています。

B;手技の概要

センチネルリンパ節生検法(RIと色素法の併用の場合)
前日にRIを乳輪部に注入し、リンフォシンチグラフィーの撮影を行います。手術時に色素を乳輪部または腫瘍の周囲に注入し、色素で染まるリンパ節(1~2個/センチネルリンパ節)を見つけ切除します. 同時にガンマプローベで放射性物質が取り込まれていることを確認します。切除したリンパ節は迅速病理組織検査を行う場合と、そのままホルマリン固定する場合があります。
術中迅速診断にてリンパ節転移が確認されれば、腋窩リンパ節郭清(レベル1,2)に切りかえます
切除されたリンパ節は術後さらに永久標本で検査を行い(2mm全割)転移の有無を詳しく検査します。必要に応じて免疫染色を追加します。その結果リンパ節に転移が発見された場合は、後日再手術による腋窩リンパ節郭清(レベル1,2)または腋窩の放射線照射を行います。
以上のようにセンチネルリンパ節生検法は従来の手術と比較して後遺症の少ない方法です。

乳房部分切除+センチネル生検+乳房照射50Gy治療後

【実臨床でのセンチネルリンパ節生検の腋窩制御率について】

虎の門病院乳腺内分泌外科データ

<背景>’90年代末より、乳癌の実臨床において導入されたセンチネルリンパ節生検(SLNB)は徐々に浸透し、’00年代半ばにはN0乳癌の標準的術式として扱われるようになった。海外で実施された無作為化臨床試験の結果を踏まえ、SLNにmicro転移を認める症例、さらにはmacro転移を認める症例に対する腋窩郭清省略が実臨床でも取り入れられつつある。今回腋窩治療の諸問題を議論するにあたり、当院での’00年代後半の症例をレトロスペクティブに検討した。

<対象と方法>当院で2006年9月から2009年12月までにSLNBを施行した513例を検討の対象とした。 同定法は色素、RIの併用で行い、T2以下のN0症例は原則SLNBを行い、またSLN転移陽性例には原則郭清を実施した。513例の内訳はTis 61、T1 279例、T2 159例、T3 14例であった。

<結果>SLN転移陽性例はTis 0/61(0%) T1 48/279 (17.2%) T2 49/159 (30.8%) T3 6/14(42.9%) であり全513例中103例(20.1%)に微小転移以上の転移を認めた。SLN陽性例のうち2個以上の転移を認めたものはT1 16/48(33.3%) T2 21/49(42.9%) T3 3/6 (50%) 計40/103(38.8%)であった。SLN転移陽性例のうちnon-SLNにも転移を認めたのはT1 13/48(27.1%)、T2 14/49(28.6%)、T3 3/6(50%) で計40/103(29.1%)であった。このうちACOSOG Z-0011試験適格例(T1又はT2、乳房温存例、SLN転移2個以下、)は57例で、このうち13例にnon-SLNに転移を認め(22.8%)、この割合はZ11試験の結果をはじめ諸家の報告に近い。

これら513例のうち、フォローアップが可能であった495例(平均観察期間5.0年)について、乳癌再発を17例(3.4%)に認め、他癌21例、癌以外の他病死2例であり、これらを合わせたevent を39 例(7.8%)に認めた。乳癌再発17例中11例に遠隔再発を認め、腋窩再発は4例(0.8%)であったが、腋窩単独再発が2例(0.4%)、胸壁、腋窩再発1例、遠隔再発に腋窩再発を伴うものが1例であった。この4例はいずれも初回手術でSLN転移陰性例であった。SLNBにて転移を認めた103例に関して、乳癌再発3例(遠隔2例、乳房内再発1例)を認め、他癌4例(卵巣癌2例、肺癌1例、皮膚癌1例)を認めたが、腋窩再発は認めなかった。

<結語>SLNB適応例の腋窩制御率が99%以上で、他癌の罹患率が4.2%である現実を踏まえると、腋窩治療の方法が、患者の生存率に対して現実的なインパクトを与える可能性は少なくQOL改善を念頭においた術式の採用が妥当と思われる。

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乳房再建手術について

乳房再建手術について

1. はじめに

乳房再建手術は、乳がんの治療やその他の理由で乳房を部分的または完全に失った患者に対し、失った乳房を外科的に再構築する手術です。乳房再建は、身体的な外見の回復だけでなく、患者の心理的な回復にも大きく貢献します。近年、乳がんの治療法や技術の進歩に伴い、乳房再建手術の選択肢も増え、患者が自分に合った方法を選ぶことができるようになりました。本稿では、乳房再建手術の概要、手術方法、タイミング、メリット・デメリット、そして手術後のケアについて解説します。

2. 乳房再建手術の概要

乳房再建手術は、乳房切除(乳房全摘)や乳房部分切除(乳房温存手術)後に、乳房の外観を再構築することを目的とした外科手術です。この手術には主に2つの方法があり、「インプラント法」と「自家組織移植法」があります。患者の身体状態や治療計画、希望に基づき、これらの方法の中から最適な選択肢が選ばれます。

再建の目標は、自然な形状の乳房を作り出し、患者が見た目や自尊心を取り戻す手助けをすることです。また、再建により身体のバランスが整い、服装の選択肢が広がるなど、生活の質の向上にも寄与します。

3. 再建手術のタイミング

乳房再建手術は、乳がんの治療計画に応じて、2つのタイミングで行われます。

3.1 同時再建

乳房切除手術と同時に再建手術を行う方法です。患者が乳房を失うショックを軽減するため、乳がん手術後すぐに乳房の再建が行われるため、心理的な負担が軽減されることが多いです。また、皮膚や乳房の形状が保たれるため、再建の結果が自然になる場合が多いのが特徴です。

3.2 二期再建

乳房切除後、一定の治療期間を経てから再建を行う方法です。特に、放射線治療が必要な患者や、全身の健康状態が十分でない患者に選択されることが多いです。放射線治療が行われると、皮膚や組織の質が変化し、再建に影響を与える可能性があるため、治療が完了してから再建を検討します。

4. 乳房再建の方法

乳房再建には主に2つの方法があり、患者の身体の状態や希望に応じて選ばれます。各方法にはそれぞれのメリットとデメリットがあるため、医師と十分に相談することが重要です。

4.1 インプラント法(人工乳房)

インプラント法は、シリコンインプラントや生理食塩水インプラントなどの人工物を使用して乳房を再構築する方法です。この方法は、比較的手術が簡便で、回復も早いという利点があります。主に以下の2つの手術ステップがあります。

  • エキスパンダー挿入: 乳房切除後、乳房皮膚や筋肉の下に「ティッシュ・エキスパンダー」と呼ばれる伸縮性のある袋を挿入し、皮膚を徐々に伸ばしてスペースを確保します。このエキスパンダーは、数週間から数か月間にわたって生理食塩水を注入し、徐々に膨らませていきます。
  • インプラント挿入: エキスパンダーで皮膚が十分に伸びた後、最終的なインプラント(シリコンや生理食塩水でできたもの)を挿入して乳房を形成します。

インプラント法は手術時間が比較的短く、体の他の部位から組織を採取する必要がないため、体への負担が少ない点が魅力です。しかし、インプラントは数年ごとに交換が必要になる可能性があるほか、感染やカプセル拘縮といった合併症のリスクも存在します。

乳房再建(インプラント)

乳房再建(インプラント)

4.2 自家組織移植法

自家組織移植法は、患者自身の体の別の部分から皮膚や脂肪、筋肉などの組織を移植して乳房を再構築する方法です。一般的に使用される組織には、腹部、大腿部、背中の筋肉などがあります。この方法は、見た目や手触りが自然に仕上がることが多く、長期的な維持が可能である点が利点です。

  • 腹直筋皮弁法(TRAM法): お腹の皮膚、脂肪、筋肉を使って乳房を再建する方法です。この方法では、余分な腹部脂肪を利用できるため、腹部のシェイプアップ効果も期待できます。
  • 遊離皮弁法(DIEP法): 腹部から皮膚や脂肪を採取する方法ですが、筋肉を使用しないため、術後の機能的な影響が少なくなります。
  • 広背筋皮弁法: 背中の皮膚、筋肉、脂肪を移植して乳房を再建する方法です。この方法は、背中の組織が比較的しっかりしているため、インプラントと併用することもあります。

自家組織移植法は、自然な見た目と感触を得られることが多い反面、手術が複雑で時間がかかり、体の別の部分に大きな切開を必要とするため、術後の回復に時間がかかるというデメリットもあります。

5. 再建手術のメリット・デメリット

乳房再建手術には多くのメリットがありますが、デメリットやリスクも存在します。患者はこれらを十分に理解し、医師とよく相談した上で手術を決定することが重要です。

5.1 メリット

  • 外見の回復: 乳房を再構築することで、手術前の外見を取り戻すことができ、衣服のフィット感も改善します。
  • 心理的な効果: 再建手術により、身体のバランスが整い、自尊心の向上や精神的な安心感を得られることがあります。
  • 生活の質の向上: 乳房再建により、日常生活の中での不便さや身体的な違和感が軽減され、患者の生活の質が向上します。

5.2 デメリット

  • 合併症のリスク: インプラント法では、カプセル拘縮や感染、インプラント破損などのリスクがあります。また、自家組織移植法では、移植部位の手術に伴うリスクや合併症が考えられます。
  • 手術回数の増加: 乳房再建は一度の手術で完了するとは限らず、数回にわたる手術や調整が必要となることがあります。
  • 長期的なメンテナンス: インプラントを使用する場合、経年的なメンテナンスが必要となる可能性があります。インプラントが破損した場合や形状が変化した場合には、再手術が必要です。

6. 手術後のケアとフォローアップ

乳房再建手術後には、適切なケアとフォローアップが重要です。術後の回復期間中は、痛みや腫れ、違和感を感じることがあり、特に自家組織移植法では回復に時間がかかることがあります。

6.1 術後の管理

術後は、感染を防ぐために定期的な消毒やドレーンの管理が必要です。また、術後数週間は無理をせず、医師の指示に従って日常生活を徐々に再開していくことが推奨されます。さらに、術後の経過を確認するために定期的な通院が必要です。

6.2 長期的なフォローアップ

再建乳房の状態を確認するために、定期的なフォローアップが必要です。特にインプラントを使用した場合は、数年ごとに状態をチェックし、必要に応じて交換や修正を行います。また、再発リスクのある乳がん患者の場合は、乳房の再建後も定期的ながん検診が欠かせません。

7. 結論

乳房再建手術は、乳がん治療後の身体的および心理的な回復に大きく貢献する治療法です。インプラント法と自家組織移植法という2つの主要な方法があり、患者のニーズや健康状態に応じて選択されます。再建手術は見た目の回復に留まらず、患者の生活の質の向上にも寄与しますが、手術にはリスクやデメリットも伴うため、十分な情報を基に医師と相談して決定することが重要です。

2024年10月作成


2013年7月から、人工物(インプラント)による乳房再建も保険適応になり、選択の幅がひろがりました

再発発見の遅れは心配ない

最近は、日本でも、乳房温存療法が乳がん手術の半数を占めるようになりましたが、それでもまだ乳房切除術が必要な人が多くいます。こうした人に、ぜひ知っていただきたいのが乳房再建術です。 乳房再建が終わってはじめて乳がん手術が完了する、といわれるほど乳房再建が一般化している国もあります 日本でも、ようやくここ10年ほどの間に乳房再建に対する関心が高まり、再建術を受ける人も少しずつですが増えてきました。乳房再建の技術そのものも、ずいぶん進歩しています。 乳房再建をためらう理由の一つに、「再発の発見が遅れるのではないか」という心配があるようです。しかし、人工乳房(インプラント)を挿入するのは大胸筋の下で、局所再発の場合は、もっと表面の皮膚や皮下に出ます。超音波検査など、体の外から内部の状態を調べられる検査も発達しているので、特にこの方法の場合乳房再建によって再発の発見が遅れる心配はないと考えてだいじょうぶです。

代表的な乳房再建手術

 

事前に十分吟味して

また、乳房を喪失してつらい思いをするのは、若い人も年配の人も同じです。現実問題として、左右のバランスが悪い、温泉旅行が楽しくなくなった、補整下着をつけるのが面倒、夏でも胸のあいた服が着られないなど、いろいろな不自由を感じることも少なくありません。もう年だから、と再建を恥ずかしがる必要はまったくないのです。 大切なことは、手術を受ける前に十分再建の方法や時期、執刀医の力量などを吟味し、再建後のイメージをある程度つかんでから再建術を受けることです。 再建術を執刀するのは、基本的に形成外科の医師です。患者側の条件にもよりますが、執刀医の力量によっても出来ばえはだいぶ違います。左右ふぞろいで、何のために再建を受けたのかわからない、といったことにならないように、事前に十分基礎的な知識を持って、方法や時期、施設などを選択しましょう。

代表的な乳房再建手術

時期と再建の方法に2種類

乳房再建は、再建の時期によって2つに分けられます。乳がんの手術と同時に再建を開始するのが「一次再建」、がんの手術後一定の時間をおいて乳房再建を開始するのが「二次再建」です。さらに、再建に何を使うかで2種類に分類されます。人工乳房(インプラントともいわれ、シリコンバッグなどを使う)を使う方法と、自分の皮膚:皮下組織や筋肉など自家組織を使う方法です。 がん治療で胸に放射線照射を受けているかどうかで、選択肢も大きく違ってきます。まず、こうした条件を一つずつ考えていきましょう。

一次再建か二次再建か

手術回数が少ないのは一次再建

最初に、乳房再建の開始時期を考えてみましょう。 先に述べましたように、がんの手術といっしょに再建術を開始する一次再建と、手術が終わったあとであらためて再建術を開始する二次再建という選択肢があります。 一次再建の利点は、何といっても、自家移植ならば一度に手術が終わってしまうことです。この場合麻酔から覚めたときにはすでに乳房が再建されているので、自分が乳房を失った姿を見ないですむのも利点といえるでしょう。

じっくり考えるなら二次再建

では、一次再建のデメリットは何かといえば、やはり十分に吟味する時間がないことです。特に、自分ががんだとわかったショック、おそらく初めて受ける手術への不安感などで、頭の中はいっぱいだと思います。その先にある乳房再建の問題で、どういう方法を選んだらいいのか、どこの施設や医師に再建術をしてもらったらいいのか、といったことまで考える余裕がない人がほとんどだと思われます。 病理の検査結果が判明していない時点で再建手術を行うことの問題もあります。後でリンパ節転移が多かったとか、切除検体の断端が陽性などの結果がでると対応に苦慮することになります。 また、乳房に局所再発した場合には、切除が基本ですから、せっかく再建した乳房を取り外さなければなりません。そういう意味では、局所再発の危険が高い2年ぐらいは待ってから再建するというのも一つの選択肢です。

放射線照射の有無も問題

もう一つ、放射線照射との関係も考えなくてはなりません。放射線照射は、皮膚にもダメージをあたえます。放射線によって皮膚が萎縮したり繊維化して固くなるので、せっかく再建した乳房も、美容的な意味がなくなることもあります。 乳房切除でも、腋窩リンパ節に4個以上の転移があれば術後に放射線照射を行います。リンパ節転移の数がもっと少ない場合でも放射線照射を行うこともあります。 そのため、放射線照射が行われないと予想される人にしか一次再建はしない方が無難という考え方もあります。 二次再建の場合は、ふつう乳がん手術のあとが落ちついてから、だいたい半年後ぐらいからはじめます。何年たったからもうできないということはありません。再建は、手術から5年後でも10年後でもできます。十分時間をかけて考えてから再建することもできるのです。 ただし、手術が1回余分に必要なことと、一次再建より費用がかかるのが欠点です。 こうした点をよく考えて、医師と相談しながら手術の時期を決めてください。

乳房再建には、2種類あります。

簡単な手術で挿入できる人工乳房

乳房再建は、再建に何を使うかで2つに分かれます。一つは、自分の組織を使う自家移植。もう一つは、人工乳房といって、生理食塩水の入ったバッグや豊胸手術などでも使われるシリコンバッグを埋め込む方法です。

人工乳房を使った再建術

一番簡単に乳房再建ができるのが、人工乳房を使う方法です。 人工乳房には、生理食塩水を入れたバッグとシリコン(ソフトコヒーシブシリコンなど)があります。生理食塩水のバッグは、大きさに合わせて生理食塩水を注入するので、左右の大きさをそろえられるのが利点です。ただ、水なので、乳房とはだいぶ質感が違い、ポチャポチャ音がすることもあります。 現在は、人工乳房といえばシリコンを指しています。これは、乳房とよく似た質感があり、豊胸手術にも使われています。 人工乳房を入れられるのは、胸の大胸筋@だいきょうきん@を残して乳房切除(胸筋温存乳房切除術)を行った人です。したがって、現在は乳房切除を受けた人のほとんどが該当します。

【単純人工乳房挿入法】

中でも簡単なのは、乳房切除後、かわりに人工乳房を入れる方法です。手術で乳房内部の乳腺組織だけを切除し、大胸筋はもちろん、乳房の皮膚や乳頭、乳輪なども残っている場合(乳頭乳輪温存皮下乳腺切除術)には、手術に引きつづいて人工乳房を挿入します。 まず、乳腺組織を摘出した傷からメスを入れ、大胸筋をはがします。その下に人工乳房を入れて、ふくらみを再現します。これは一次再建が基本で、外見的には、比較的元に近いきれいな乳房ができます。アメリカでは比較的人気のある方法ですが、これができるのは十分ふくらみがつくれる皮膚が残っている人に限られます。

【組織拡張法】

乳がん手術は、ふつう皮膚ごと乳房を切除してしまうので、人工乳房でふくらみをつくるには、人工乳房を入れるだけの皮膚の余裕をつくらなければなりません。そこで行われるのが、エキスパンダーによる皮膚の拡張です。 簡単にいえば、皮膚を伸ばす器具を胸に入れて、ゆっくりと時間をかけて皮膚を伸ばしていくのです。そのあと、人工乳房を挿入します。なおエキスパンダーという拡張器を使った1次再建の利点として、エキスパンダーを入れてから、人工乳房にするか、皮弁形成術にするか考える時間があること、またエキスパンダーを入れた後で切除断端陽性、放射線照射が必要などの問題があっても、エキスパンダーはどうしてもやむをえない場合は、局所麻酔で日帰り手術で容易に抜去できるので、自家組織による一次再建のような大きな問題にならないことが利点です。 二次再建で行う場合は、乳房切除術が終わって傷が治ったところで、エキスパンダーを埋め込む手術をします。乳房を切除したときの傷口を利用してメスを入れ、大胸筋をはがし、その下にエキスパンダーを埋め込みます。1時間程度の手術です。 エキスパンダーは袋になっているので、最初はここに少量の生理食塩水を入れます。あとは、週に一度から月に一度の割合で、生理食塩水の量を増やして皮膚を伸ばしていきます。反対側の乳房よりやや大きめのふくらみになったところで、生理食塩水の増量はストップします。そして、そのままの状態を3カ月ほど維持します。エキスパンダーを取り除いても皮膚が元に戻らないように十分に皮膚を伸ばすためです。 ここで、十分皮膚が伸びていれば、乳房もやわらかく自然な形にできます。その後、また手術でエキスパンダーを除去し、かわりにシリコンの人工乳房を挿入します。乳頭部や乳輪は、そのあとで再建します。 最初にエキスパンダーをちょうどいい位置に挿入し、皮膚を上手に伸ばすのがこの再建法のポイントです。

【人工乳房再建の長所と短所】

人工乳房を使った再建術は、体への負担か少ないのが利点です。2回手術をするといっても、両方とも1回目は1時間、2回目は30分程度の短い手術です。入院も数日以内です。 また人工乳房の利点はやり直しがきくことです。後で人工乳房を除去して皮弁での再建をやり直すことはできますが、その逆はできません。局所再発した場合にも人工乳房なら除去して再発治療を行い、後で再度乳房再建を行うことができるというのも大きなメリットです。  短所は、エキスパンダーで皮膚を拡張するときに、皮膚が破れたりゆがんで伸びてしまうこともあります。また、反対側の乳房は年齢とともに下垂してきますが、人工乳房を埋め込んだ乳房はいつまでも若々しく、張りがあります。その調整のために再手術が必要になることもあります。

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自家組織による再建

定型的手術(ハルステッド法)などで、乳房といっしょに大胸筋まで切除した場合は、人工乳房だけで乳房を再建することは困難です。過去にこの手術を受けた方の場合には、自家組織による乳房再建が唯一の選択肢になります。しかし現在の乳がん手術は大胸筋温存が原則のため、自家組織による再建と、人工乳房による再建の2つの選択肢があります。どちらが適しているかは、患者さんの元々の体型とがんの手術内容が決め手となります。

自家組織による再建は、患者さん自身の体の一部を使って乳房を再建する方法です。 実際には、腹部の組織を使う「腹直筋皮弁(ふくちょくきんひべん)法」と、背中の組織を使う「広背筋皮弁(こうはいきんひべん)法」があります。ここでは有茎皮弁法と呼ばれる、皮膚、脂肪、筋肉に血管をつけたまま別の部位に移植する方法について説明します。

【広背筋皮弁法】

広背筋は、腕のつけ根から背中や腰の方に向かって扇型に広がる筋肉です。この筋肉に皮膚と脂肪をつけたままはがし、血管は温存したまま、切除した乳房部に移植します。背中の筋肉は比較的薄くて脂肪も少ないので、乳房のボリュームが出にくい欠点があります。この方法は比較的負担の少ないいい方法ですが、患者さんの体型によっては不向きなこともあります。

【腹直筋皮弁法】

腹部には、中心部をタテに走る太い腹直筋が2本あります。腹部には脂肪も多く、広背筋よりボリュームが出せるのが利点です。 このうちどちらか一つの筋肉に脂肪と皮膚をつけて、さらに血管をつけたまま切除した乳房部に移植します。 腹直筋でつくった乳房は柔らかく、本物の乳房とよく似た感触があります。

【自家移植の長所と短所】

自家移植は、異物を使わないことと、やわらかいぬくもりがあるのが利点です。しかし、乳房と、組織を取ってきた背中や腹部に傷が残るのが欠点です。きれいに縫って、下着に隠れるような位置にしてありますが、傷が消えることはありません。手術自体も、人工乳房にくらべれば大きくなり、入院期間も1~2週間は必要です。 特に、腹直筋を使った手術は体への負担が大きく、元の生活に戻るためには、2~3カ月かかると思っていてください。また、腹筋が弱くなるので、これから妊娠出産を考えている人には適応できない方法です。

【遊離皮弁法】

筋皮弁を完全に遊離して血管吻合する方法もあります。デザインの自由度が増し、仕上がりが最も期待できる方法です。反面、血管吻合がうまくいかないと遊離した組織が生着しないという大きなリスクを伴います。 人工乳房の場合は、以前は周囲に線維化が起き、固く変形する(被膜拘縮)ことも少なくありませんでしたが、今でも素材がよくなりトラブルの頻度は少なくなりました。それでもこうしたトラブルがないわけではなく人工乳房を除去しなくてはならないこともあり得ます。自家組織でも、まれに組織が生着しなかったり、血流がうまく流れなくて組織が死んでしまうことがあり得るなど、医療には絶対はないため、こうしたリスクを十分理解して手術に臨まれることが必要でしょう。

【乳頭部と乳輪の再建】

乳房再建の仕上げが、乳頭部と乳輪の再建です。これは、乳房再建による乳房のふくらみが落ちついたあとで、ゆっくり行います。3か月から1年ぐらいたってからと考えて下さい。 乳頭部と乳輪の再建にも、いくつかの方法があります。もし乳頭部がわりあい大きい人ならば、反対側の乳頭部と乳輪を半分切って移植することもできます。反対側の乳房から取ってくるので、色も性質も自然なのが利点です。ただ、健康なほうの乳房にもメスを入れるのが難点です。手術は1時間ほどで、傷もやがてわからなくなりますが、授乳はできなくなります。 新たにつくる場合は、乳頭部にあたる部分の皮膚を立体的に盛り上げ、乳輪はTattooで皮膚を染めてつくります。乳頭部の再建には保険が効きますが、Tattooによる乳輪の再建は現時点では保険が効きません。 乳房再建に関する保険適応の問題、費用の問題はやや複雑です。またトラブルが起きた時、費用を誰が負担するのかという問題もあります。このため事前によく費用の問題を確認しておくことが重要です。

乳頭部と乳輪の再建例(アクセス制限あり)
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[コラム]  放射線と乳房再建

放射線照射をすると、皮膚が萎縮(いしゅく)したり、人工乳房に皮膜ができて固く拘縮(こうしゆく)するおそれがあるので、照射前に乳房再建は行わないのがふつうです。放射線治療後は、皮膚のダメージの具合によります。エキスパンダーを使っても皮膚が伸びないこともあるので、自家組織を使うのが原則です。しかし、いろいろな工夫もあるので、乳房再建の専門家に相談してみましょう。

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