乳がん術後のリンパ浮腫に対する手術療法

1. 乳がんとリンパ浮腫の関係

乳がんの治療において、乳房の切除や腋窩リンパ節の郭清(腋窩リンパ節を取り除くこと)が行われることが多くありますが、これによりリンパの流れが阻害されることがあります。特に腋窩リンパ節を摘出した場合、腕や手にリンパ液が滞り、リンパ浮腫が発生するリスクが高まります。リンパ浮腫は痛みやむくみ、皮膚の硬化などを引き起こし、生活の質を大きく損なう可能性があるため、早期の予防や治療が重要です。

2. リンパ浮腫の治療法の概要

リンパ浮腫の治療は一般に保存療法と手術療法の2つに分けられます。保存療法は、圧迫療法やマッサージ、運動療法、スキンケアなどを組み合わせて行われますが、重度の場合や保存療法では効果が得られない場合に、手術療法が検討されます。手術療法にはさまざまなアプローチがあり、症例に応じて選択されます。

3. リンパ浮腫に対する手術療法の種類

リンパ浮腫に対する手術療法には、主に以下のような方法があります。

3.1 リンパ管静脈吻合術(LVA)

リンパ管静脈吻合術は、滞留したリンパ液を体外に流すための手術方法です。手術中に顕微鏡を使用し、直径1ミリ以下のリンパ管と静脈を吻合(つなぎ合わせる)することで、リンパ液の流れを静脈に迂回させます。この手術は比較的小規模であり、身体への負担が少ないことが特徴です。効果は患者の状態やリンパ管の健康状態に左右されるため、早期のリンパ浮腫に効果的とされています。

3.2 リンパ管自家移植術

リンパ管自家移植術は、健康なリンパ管を体の別の部位から採取し、リンパ浮腫が発生している部位に移植する手法です。移植されたリンパ管が新しいリンパの流れを形成し、浮腫の改善が期待されます。この手術は特に重度のリンパ浮腫に対して適応されることが多く、術後の管理が重要とされます。リンパ管の採取部位によっては、移植部の合併症や新たな浮腫が発生するリスクもあります。

3.3 リンパ節移植術

リンパ節移植術は、主に健康なリンパ節を別の部位から採取し、患部に移植する方法です。この移植リンパ節が浮腫部分のリンパ液を吸収し、浮腫の改善を図ります。よく使われる部位は鼠径部や首で、腋窩や肘などの浮腫の発生部位に移植します。リンパ節が血流を得て活性化し、リンパ液の排出に貢献するまでには一定の時間がかかるため、術後の経過観察が必要です。

3.4 脂肪吸引

浮腫が進行すると、リンパ液が周囲の組織に蓄積し、硬化してしまうことがあります。このような場合、リンパ管自体の手術効果が期待しにくいため、浮腫部分の脂肪吸引が行われることがあります。脂肪吸引では硬化した浮腫組織を物理的に取り除き、浮腫を軽減させることが目的です。脂肪吸引は外見上の改善をもたらしますが、根本的なリンパの流れを改善するものではないため、術後も圧迫療法やリハビリが継続して行われます。

4. 手術の適応と術後の管理

手術療法はすべてのリンパ浮腫患者に適応されるわけではなく、保存療法が効かないケースや、日常生活に大きな支障をきたしている場合に限られます。手術後は再発防止のため、引き続き圧迫療法や運動療法を行い、浮腫の再発や悪化を予防します。また、浮腫の程度や症状の改善具合に応じて、リハビリテーションのプログラムが調整されます。

5. 手術療法の効果と課題

リンパ浮腫手術は効果が期待できるものの、すべての患者に対して完全に症状が改善するわけではありません。リンパ管やリンパ節の健康状態、患者の全身状態、手術技術などによって結果が異なることが多く、手術後の再発や合併症のリスクも存在します。現在では、術後のフォローアップや保存療法との併用が重要視されており、最適な治療プランが提供されています。

6. まとめ

乳がん治療後のリンパ浮腫は生活の質に大きな影響を及ぼすため、早期の治療と適切な管理が重要です。リンパ浮腫に対する手術療法は、保存療法が効果的でない場合に実施され、リンパ管静脈吻合術、リンパ管自家移植術、リンパ節移植術、脂肪吸引などの方法が選択されます。手術療法は症例によって効果が異なるため、術後のフォローアップや保存療法との併用が重要です。リンパ浮腫の治療は多面的なアプローチが必要であり、患者一人ひとりの状況に応じた治療が求められています。


このように、乳がん術後のリンパ浮腫に対する手術療法は、多様な方法が存在し、患者の状態に応じて選択されることが特徴です。

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リンパ浮腫のケア

リンパ浮腫のケア

腋窩リンパ節郭清が原因

乳がん手術の後遺症として、もっともよく知られているのが「リンパ浮腫@ふしゅ@」です。
リンパ浮腫は、脇の下のリンパ節郭清@かくせい@をした人に起こる症状です。センチネルリンパ節生検をして、腋窩リンパ節の郭清が必要ないと診断された人にはほとんど起こりませんが、まれに生検だけでもむくむ人がいるので、注意は必要です。
リンパ節は、リンパ液が流れるリンパ管の関所のようなものです。これを郭清して切除すると、リンパ液の流れが悪くなりますが、特に腕の先から肩に向かう流れが悪くなります。そのため、リンパ管から漏出@ろうしゅつ@したリンパ液が腕にたまり、むくんでいくのです。
といっても、リンパ節郭清をした人のすべてがリンパ浮腫になるわけではありません。データによってバラツキはありますが、5~25%といわれています。ふつうは、リンパの流れを助けるバイパスができるからです。
最初は、腕が何となくはれぼったいが、特に痛みはない、といった程度ではじまることが多いのですが、そのまま放置していると、腕から手にかけてパンパンにむくみ、日常生活に支障をきたすほどになることもあります。感染症を起こして、突然真っ赤になり、発熱することもあります(蜂窩織炎@ほうかしきえん@)。
いったんひどくなると、なかなか治りにくいので、予防につとめることが大切です。

マッサージと弾性スリーブ

手術後、手術した側の肩や胸、背中などがはれぼったくなるのは、手術のせいで、それは次第に治まっていきます。しかし、腕回りが1センチ以上太くなったら、リンパ浮腫の可能性が高いと考えてください。
早期発見のためにも、手術前から腕回りをはかっておくといいでしょう。はかるのは手首とひじの少し下、ひじの少し上の3カ所です。治療効果を見るのにも役立ちます。
リンパ浮腫の予防と治療は、マッサージと弾性スリーブ(サポーター)の装着が基本です。
リンパの流れは、完全に遮断されているわけではないので、マッサージでリンパの流れを助けてあげます。これが「リンパドレナージ」です。マッサージは、強くやりすぎると逆効果なので、自分の手で、下から上に皮膚をなで上げます。リンパ浮腫の治療を専門にした医師やトレーニングを受けた看護師、理学療法士に正しい方法を指導してもらいましょう。
運動して筋肉を動かすことも、リンパの流れを助けてくれます。例えば肩の上下運動や肩回し、腕を広げて深呼吸をするような動作、腹式呼吸は効果があるといわれています。手で握ったボールに力を入れたり抜いたりするような簡単な運動でもいいのです。弾性スリーブをはめた状態でも、運動をしましょう。さらに、感染を防ぐために、保湿クリームを塗ることも忘れないでください。

(運動のしかた・イラスト)(弾性スリーブの図)

リンパ浮腫と日常生活の注意点

浮腫を悪化させない注意

乳がんの手術を受けた人は、程度の違いはあっても、何らかの違和感や症状を抱えることが少なくありません。
その大半は手術によるもので、時間の経過とともにやわらいできます。しかし、リンパ浮腫によるむくみや、神経を傷つけたことによる腕のしびれや感覚の低下は、長く患者さんを悩ませる原因となります。
神経痛のようなキリキリした痛みや鈍痛がつづき、日常生活の妨げにもなるような場合には、ペインクリニックという痛み専門の治療を行っている施設で相談してみましょう。
また、リンパ液はたまるほど、解消するのも大変になります。今日の分は今日のうちに流すという気持ちで、毎日根気よくマッサージをつづけることが大切です。入浴後のマッサージも、効果的です。寝るときは抱き枕に腕を乗せる、休むときはひじ掛けに腕を乗せるなど、腕を下に降ろしっぱなしにしないようにしましょう。重いものを長い時間持つのも避けましょう。
もし、むくみがあまりにひどい場合は、手術という方法もありますが、その効果は個人差が大きいようです。
さらに、日常生活でも、浮腫を悪化させない注意が必要です。

日焼けやけがをしない

リンパ節は、細菌など、外部からの異物の侵入をくい止める免疫の拠点でもあります。そのため、リンパ節郭清をした人は感染しやすい状態にあります。
日常生活でも、できるだけケガをしたり、細菌感染の起こりやすい状態を避けなければなりません。炎症を起こすと、リンパの流れが悪くなり、またむくみがひどくなるからです。そのためには、

●ひどい日焼けをしない
●爪のささくれをつくらない
●土いじりやガーデニングのときは必ずゴム手袋を装着し、終わったら石鹸で手を洗う
●虫刺されをできるだけ防ぐ
●患部の側の腕には時計や指輪をしない、

といった注意が必要です。これは、一生つづける必要があります。万が一、腕が赤くはれたり、発熱した場合には、すぐにかかりつけ医へ行きましょう。蜂窩織炎@ほうかしきえん@といって、腕に炎症が広がっているかもしれません。このときはマッサージもやめて、診察を受けるまでの間は腕を冷やします。通常は抗生物質が処方され、経過をみることになります。
また、肥満しないことも大切です。脂肪がリンパ管を圧迫して流れを妨げるからです。

疲れないようにする

リンパ浮腫の患者さんの多くは、引っ越しや人の介護など、何かのきっかけでむくみがひどくなることがあります。リンパ浮腫には、疲れも大敵です。多少わがままと思われても、「根をつめない」「無理をしない」という精神で、まず自分の体を考えて生活することが必要です。

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