がんの原因、進行の仕方、病期

がんの原因は?

がんは細胞の遺伝子に障害が蓄積されて起こると考えられていますが、その原因や障害が蓄積されるメカニズムも様々です。例えばタバコの煙の中にある特定の化学物質はがんを引き起こすことが知られており、このような物質を発がん物質と呼びまたがんの原因とみなしています。このようにがんは発がん物質への暴露が原因となることもありますが、ウイルスや細菌への感染が原因となること、また遺伝的要因が原因として重要なこともあります。一方でこのようなはっきりした原因、メカニズムが特定できないことの方が多く、がんの原因というよりはがんを増加させるリスク要因という形で多くの因子が取り上げられています。

表1)がんの原因・リスク要因

生活習慣に関わる因子 タバコ、食事、アルコール、運動不足、日焼けなど
生まれ持った要因 年齢、性別、人種、遺伝的要因など
職業的な因子 様々な化学物質、放射線被爆、アスベストへの暴露など
感染が関わる因子 ウイルス、細菌など

がんの原因、がんを増加させるリスク要因は大まかに表1)のように4つに分けることができます。タバコはがんの原因の30%程度を占めると考えられており、これを含めた生活習慣に関わる因子ががんの原因の過半数を占めています。感染が関わる因子、職業が関わる因子もそれぞれがんの原因の10%程度と考えられており、これらは具体的な対策が可能であり、行政的な側面からは非常に重要です。近年は遺伝解析が技術的にも費用的にも可能になってきたことに伴い遺伝的側面からの対策も重要になってきました。遺伝性腫瘍のほとんどは、がん抑制遺伝子の生まれつきの異常(変異)が原因で、大腸がんや乳がん、卵巣がんの一部はこうした遺伝子変異を原因に発症してきます。

【喫煙】
これまでの研究から、たばこが肺がんをはじめとするさまざまながんの原因となることが、科学的に明らかにされています。たばこを吸うと、本人だけでなく、周囲の吸わない人にも健康被害を引き起こします。がんを予防するためには、まずたばこを吸わないことが最も効果的です。現在たばこを吸っている人も、禁煙することによってがんになるリスクを下げることができます。ちなみにがんになった人のうち男性で30%、女性で5%程度はたばこが原因だと考えられおり、禁煙ががん対策の最も重要な柱であり、各国とも禁煙を政策の重要な柱に掲げています。

【飲酒】
飲酒は口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓、乳房のがんのリスクを上げることが知られています。飲酒により体内に取り込まれたエタノールは、動物での発がん性が示されているアセトアルデヒドに代謝されるため、がんの原因になると考えられています。また飲酒は、免疫機能を抑制するとともに、エストロゲン代謝へ影響を及ぼすこと、食事が偏り栄養不足につながるなどのメカニズムを通じがんの原因となると考えられています。例えば2012年の報告では世界においてがん死亡の5.8%がアルコールに起因すると推定されています。一般にはタバコほどの危険性が認識されていませんが、がんの予防という観点からは重要な問題です。喫煙者が飲酒をすると、食道がんやがん全体の発症リスクはさらに高くなることが知られています。

表2)がんの原因となる主なウイルス・細菌

ピロリ菌(細菌) 胃癌
ヒトパピローマウイルス(HPV) 子宮頸癌 中咽頭部癌
B型肝炎ウイルス(HBV) 肝癌
C型肝炎ウイルス(HCV) 肝癌

 

がんの進行の仕方は?(浸潤、転移、播種の説明)

がんの進行の仕方として、発生した臓器の中で周囲に浸潤していくプロセスと他臓器などに転移をしていくプロセスに分けられます。がんの広がり方、進行の仕方を正しく理解することは手術や放射線治療などの局所療法、さらには薬物療法の導入に重要です。

浸潤(発生した臓器内ならびにその近傍の周囲組織への浸潤)
がんの周囲組織への浸潤は、がん細胞が周囲の正常組織を破壊しながら、浸み込むように広がっていくことを意味します。浸潤した先には微小な血管やリンパ管があり、これを介してがんは転移することが可能になります。転移とは、がん細胞が血管やリンパ管を通って、離れた組織に飛び火して広がることを意味します。ただし火の粉が飛んでも、そこで着火しなければ転移とは言いません。すなわち飛んで行った先の組織に生着して初めて転移が成立したことになります。我々ががんの転移を認識できるのは、画像で見える大きさにまで成長してからです。画像には見えないけれども、実際には転移があると想定される場合にはがんの微小転移が成立したと表現します。しばしば術後に薬物療法が行われるのは、手術で病変を完全に切除した後も目に見えない転移が残っていると想定して、こうした病変を完治させようとして行われます。

転移
1)周囲臓器への直接浸潤
原発巣から隣接する他の臓器にがんが直接広がっていくことを、直接浸潤といい、臓器転移のひとつの形です。膵臓がんなどはこのためしばしば局所において切除不能になり、局所がコントロール出来なくなり予後が不良とされています。他の臓器には直接浸潤するが、遠くへは転移を起こさないような場合は他臓器も含めた合併切除(拡大手術)の適応となります。

 

3)血行性転移
血行性転移とは、原発巣にいたがん細胞が周囲の微小血管に浸潤し血液の流れの中に入って全身の他の部分に移ることによって起こる転移です。これによって遠隔転移が成立し、画像でとらえられるような大きさになった転移は遠隔転移と表現され、大部分のがんでは治癒が困難になります。血管の中にがん細胞が入って全身に運ばれてもかならずしも転移が成立するわけではありません。がんには生着しやすい臓器、転移しやすい臓器があり、このような関係を種と土壌の理論と呼んでいます。

4)播種性転移
播種性転移とは、種を蒔くようにがん細胞が散らばっていくことからつけられた名前です。内臓と腹膜、胸膜の間に腹腔や胸腔という隙間があります。この隙間に、近くに出来た臓器にあるがんが増殖して、その内面に種を蒔くように広がっていくのが播種性転移です。進行した胃がんや肺がんなどでよく見られます。

表)がん転移の4つの種類

直接浸潤 原発巣のがん細胞が隣接する他の臓器に直接波及して広がること
リンパ行性転移 原発巣のがん細胞が周囲のリンパ管に浸潤し、そのリンパ管を経由してがんが広がること
血行性転移 血行性転移 原発巣のがん細胞が周囲の血管に浸潤し、その血管を介して全身の他臓器に広がること
播種性転移 原発巣のがん細胞が直接胸膜や腹膜などにばらまかれるような形で広がること

 

がんの病期について(TNM分類とステージの概要)

がんの病期について
病期(ステージ)はがんの大きさや広がりを客観的に表し、病状の把握や今後の治療計画に役立てます。病期を客観的に記載することで施設や地域毎の治療成績を比較したり、いくつかの治療方法の良し悪しを比較することができるようになります。なお病期は最初に診断した時点での進行度を表し、その後にがんが進行したとしても変更しないというルールになっています。即ちステージⅠの患者さんがその後遠隔転移をしても、再発したという表現は使いますが、ステージⅣになったという言い方はしません。

病期の決め方について
まずはTNM分類を用いて、診断時のがんの病状を客観的に記載します。Tは原発巣の大きさと進達度、Nはリンパ節転移の有無と程度、Mは遠隔転移の有無を表現しています。このTNM分類はがんの病期分類に用いられる指標の代表的なものです。このTNM分類を基準に各がん種毎に対応する病期(ステージ)が決められています。国際的には国際対がん連合(UICC)によって定められたTNM分類とそれに基づく病期が広く使われており、日本ではこれをベースに修正が加えられた癌取扱い規約が用いられています。がん種によっては両者がほとんど同じものから、内容が異なるものもあります。基準が国内外で違うと国際比較に支障をきたすという観点からなるべく両者の違いをなくそうというのが最近の傾向です。

TNM分類の一般的基準
実際には各臓器のがん毎の詳細な基準を用いる。臨床所見に基づいて分類ものを臨床的TNMといい、術後の病理学所見に基づいて分類する病理学的TNMと区別して記載する。

T(tumor) がん(原発巣)の大きさと進達度を表す。T0〜4までの段階に分けられる。
N(nodes) 所属リンパ節への転移状況を表す。転移のないものをN0とし、第一次リンパ節、第二次リンパ節への転移、周囲への浸潤の有無からN3までの段階に分ける。
M(metastasis) 遠隔転移の有無を表す。遠隔転移がなければM0、あればM1となる。
Stage TNMを基準にしてstage 0〜IVにステージを分類する。

がんの病期に関わる分類

UICC-TNM分類 がんの進行度を判定する基準として国際的に活用されている国際対がん連合(UICC)採用のがんの分類方法。最も標準的な分類で先進国以外でも使いやすいベーシックなもの。
AJCC分類 AJCC分類 AJCC(American Joint Committee on Cancer)の分類はアメリカで標準的に用いられている分類である。基本はUICC分類と共通であるがアメリカの医療を反映して遺伝子検査なども加味された内容になっている。
WHO分類 ヒトの腫瘍の組織型分類のための国際的な標準規約である。 正式には世界保健機関 (WHO)の下部組織である国際がん研究機関が定めた腫瘍分類の規約である。
癌取り扱い規約 日本のがんに関わるルールブックでがんの進行度の記載や、病理分類が含まれている(UICC分類、WHO分類になるべく互換性のある内容になっている)。かつては治療指針も含まれていたが、現在では「がん診療ガイドライン」が担っている。