30代、40代女性の非浸潤性乳がんの治療について (質疑 1-1)

50歳以下の女性(30代、40代)で、非浸潤性乳管癌と診断されました。乳房温存手術の適応がありそうだということです。今後追加すべき検査、手術術式の選択肢、今後の治療の見通し、予後の見通しをまとめてください。

50歳以下の女性で非浸潤性乳管癌(DCIS)で乳房温存(BCT)が視野に入っている方に向けて、現時点で考えるべき追加検査、手術の選択肢、術後治療の見通し、予後を要点整理でまとめます。

1) 追加で検討すべき検査

病変の広がり評価

  • 乳房MRI:微細な広がり(多発・散在性、非連続病変)や対側乳房のチェックに有用。温存の可否や切除範囲の最適化に役立ちます。若年では乳腺が高濃度のことが多く、マンモだけより病変把握が精密になります。
  • 超音波(US):腫瘤性成分の有無、ドレナージパターンの確認。術中の位置同定にも有用。
  • ステレオガイド下生検/マーキング:石灰化主体なら術前にワイヤー/シードで正確にマーキング。切除標本の標本X線で石灰化の摘出確認を行います。

病理・分子情報

  • グレード(核異型度)・壊死(comedonecrosis):再発リスク層別化の中心。
  • ER/PgR:ホルモン療法適応判断に必須。
  • (施設差はありますが)HER2は参考所見として測定されることもあります。
  • 浸潤の可能性が示唆される場合は標本での厳密な検索が必要。

遺伝学的評価

  • 50歳以下は若年発症にあたり、家族歴や両側性、多発性等があればBRCA1/2等の遺伝学的カウンセリング・検査を検討。術式選択(温存/乳房切除、対側予防)や放射線感受性の議論に影響し得ます。
非浸潤性乳管癌

非浸潤性乳管癌

2) 手術術式の選択肢(乳房・腋窩)

乳房側

  • 乳房温存手術(部分切除)+術後放射線:DCISで最も標準的。整容性と局所制御のバランス良好。
    • 目標は陰性断端(一般に2mm以上が推奨の目安)。断端が近接/陽性なら**追加入線(re-excision)**を検討。
    • 広範囲・多発・乳輪直下広がり等では温存が難しく、全摘が現実的な場合あり。
  • 乳房全切除(皮膚温存/乳頭温存を含む)+再建
    • 病変が広い、広く散在、再発例、整容性確保が困難、放射線回避希望などで選択。
    • 同時再建はティッシュエキスパンダー→インプラント、または自家組織再建(広背筋皮弁等)。乳頭温存は腫瘍からの距離・病理を慎重評価。

腋窩側(センチネルリンパ節生検, SLNB)

  • DCIS単独なら原則不要。ただし
    • 全摘を行う場合(後からSLNBができなくなるための保険)
    • 微小浸潤が強く疑われる場合、大病変・高グレード・広範壊死、マス形成など
      では同時にSLNBを施行することが一般的です。温存でDCIS確定なら省略可能。

3) 術後治療の見通し

放射線治療(RT)

  • 乳房温存後は全乳房照射が標準。局所再発(特に浸潤再発)を有意に減らします。
  • 分割は低分割(3〜4週間程度)が主流。高リスク(若年、高グレード、断端近接など)ではブースト照射を追加検討。
  • 全摘例では通常RT不要ですが、切除断端陽性・胸壁ハイリスク等では個別に検討。

内分泌療法

  • ER陽性DCISでは、タモキシフェン(閉経前/後)またはアロマターゼ阻害薬(閉経後)を検討。目的は同側・対側の新規病変/再発予防
  • 若年例では副作用(血栓、内膜、ほてり、月経・妊孕性への配慮)を説明し、希望やライフプランに合わせて決定。

化学療法

  • DCIS単独には不要。浸潤成分が出現し、浸潤癌としてのリスクが高い場合のみ別途検討。

臨床試験/経過観察の選択肢

  • 低リスクDCISの治療低減(放射線省略や監視)を検証する試験が進行中ですが、現時点の標準は温存+RT(ER+なら内分泌追加)です。治療省略は臨床試験下や厳密な選別で。

4) 予後の見通し

  • DCISは遠隔転移を起こさない段階の乳管内病変で、乳癌特異的生存率は極めて高く(約98–99%)
  • 課題は局所再発(同側再発)。無治療・放射線省略では10–20%程度が報告され、放射線追加で約半減。さらにER陽性で内分泌療法を加えると同側・対側再発ともに追加で低減します。
  • 若年(≤50歳)・高グレード・壊死あり・大きい病変・断端近接/陽性は再発リスクが高め。逆に小病変・低グレード・明瞭な陰性断端ではリスクは低く保てます。
  • 全摘の局所再発率は低い一方で、両側発症リスクや長期整容・感覚とのバランスを総合判断します。

5) 術後フォローと生活面

  • フォロー:診察・視触診、年1回マンモ(乳腺濃度や年齢でUS併用)を基本に、術後1–2年は短め間隔で開始。
  • 妊娠/授乳:将来的な妊娠は可能。タモキシフェン内服中は確実な避妊が必要で、妊娠希望は主治医と治療期間や休薬時期を事前に相談。
  • 整容性:温存では切除範囲と放射線で形態変化があり得ます。形成外科的手技(オンコプラスティック)で整容性改善が可能。

まとめ(実行プランの一例)

  1. 乳房MRIで広がり最終評価 → 温存可能性と切除範囲を確定。
  2. 病理のER/PgR、グレード、壊死を確認。浸潤疑いならSLNB併施を検討
  3. 乳房温存+全乳房照射を基本方針に。リスクに応じブースト
  4. ER陽性なら内分泌療法を提案。副作用とライフプランで調整。
  5. 家族歴等あれば遺伝カウンセリングを提示。
  6. 長期の画像フォローとセルフチェックを継続。

不安や希望(放射線回避、整容優先、妊娠希望など)によって最適解は変わります。上記の枠組みを土台に、あなたの価値観に沿った“納得できる治療設計”を詰めていきましょう。