センチネル(見張り)リンパ節生検

乳腺の組織にはリンパ管がネットワーク状に張りめぐらされており、乳腺内に発生した異物などはこうしたリンパ管を通じて、腋窩にある見張りリンパ節(センチネルリンパ節)に注ぎこまれます。ここからさらにリンパ節がネットワーク状に分布されており(腋窩リンパ節)、生体にとっての異物が処理されていきます。このため乳房に発生したがん細胞もリンパ管を通じてセンチネルリンパ節に集められ、さらにそこから周囲のリンパ節にも運ばれ処理されます。リンパ節ががん細胞を処理できれば問題ありませんが、処理しきれなければ転移が成立します(リンパ節転移)。このためセンチネルリンパ節に転移があれば他のリンパ節にも転移がある可能性が高く、センチネルリンパ節に転移がなければ他のリンパ節はまず大丈夫と考えられます。このような考え方は、【センチネルリンパ節の仮説】と呼ばれ、かなり真実に近いと思われています。 今日の乳がん治療の論点のひとつに腋窩リンパ節をどのように取り扱うかという問題があります。

腋窩リンパ節郭清(伝統的な方法)

転移の可能性のある腋窩リンパ節(小胸筋の内縁まで)を完全に(系統的に)切除する方法で通常10~30個程度のリンパ節が切除されます。

○腋窩リンパ節転移の有無の診断および治療(局所コントロール)のためには最も確実な伝統的方法です。
×合併症として、上肢のむくみ、腋の違和感、感覚低下などが一定の頻度で起こります。他覚的な上肢のむくみの発生頻度は10~20%程度とされています。

乳房内に注入されたアイソトープと同定されたセンチネルリンパ節(リンフォシンチグラフィー)

センチネルリンパ節生検(新しい方法)

色素や放射性物質を腫瘍の周囲または乳輪部に注入し、その物質が最初に注がれるリンパ節(センチネルリンパ節/通常1~2個=最も転移がみつかる可能性の高いリンパ節)だけを見つけ切除する方法。術中の迅速病理診断で転移が見られれば、腋窩リンパ節郭清に切りかえます。 現在都内の主要施設では適応のある患者さんにとっての第一選択の治療であり、伝統的なリンパ節郭清を最初から選択することは少なくなっています
後遺症が非常に少ない方法です。腕のむくみはまず起きないとされています。

虎の門病院でのセンチネルリンパ節生検法の実際について

1)RI法と色素法の併用法で行う場合と色素法単独で行う場合があります
RI法  使用するトレーサー  99mTc‐フチン酸
ガンマプローブ    Navigator
色素法 使用する色素     インジゴカルミンまたはパテントブルー
2)全身麻酔で乳房の手術と一緒に行う場合が一般的ですが、術前に化学療法を行う方は局所麻酔でリンパ節生検だけを行う場合があります
3)リンパ節の病理検索はホルマリン固定後2mm全割にて検索します。術中迅速診断にて転移ありと診断されれば、リンパ節郭清をその場で追加します。免疫染色での検索は組織型などの要因により追加します。

A;対象となる方の条件
A-1 あらかじめ腋窩を触診、超音波、CT等で検索しリンパ節転移の疑いがないことが第一条件となります。
A-2 しこりがかなり大きい人の場合はリンパ節に転移している可能性が高いため(検査前確率が高いという表現をします)除外したほうが無難とされています。
A-3 乳房温存手術、乳房全摘手術に関わらず、センチネルリンパ節生検の対象としています。

B;手技の概要

センチネルリンパ節生検法(RIと色素法の併用の場合)
前日にRIを乳輪部に注入し、リンフォシンチグラフィーの撮影を行います。手術時に色素を乳輪部または腫瘍の周囲に注入し、色素で染まるリンパ節(1~2個/センチネルリンパ節)を見つけ切除します. 同時にガンマプローベで放射性物質が取り込まれていることを確認します。切除したリンパ節は迅速病理組織検査を行う場合と、そのままホルマリン固定する場合があります。
術中迅速診断にてリンパ節転移が確認されれば、腋窩リンパ節郭清(レベル1,2)に切りかえます
切除されたリンパ節は術後さらに永久標本で検査を行い(2mm全割)転移の有無を詳しく検査します。必要に応じて免疫染色を追加します。その結果リンパ節に転移が発見された場合は、後日再手術による腋窩リンパ節郭清(レベル1,2)または腋窩の放射線照射を行います。
以上のようにセンチネルリンパ節生検法は従来の手術と比較して後遺症の少ない方法です。

乳房部分切除+センチネル生検+乳房照射50Gy治療後

【実臨床でのセンチネルリンパ節生検の腋窩制御率について】

虎の門病院乳腺内分泌外科データ

<背景>’90年代末より、乳癌の実臨床において導入されたセンチネルリンパ節生検(SLNB)は徐々に浸透し、’00年代半ばにはN0乳癌の標準的術式として扱われるようになった。海外で実施された無作為化臨床試験の結果を踏まえ、SLNにmicro転移を認める症例、さらにはmacro転移を認める症例に対する腋窩郭清省略が実臨床でも取り入れられつつある。今回腋窩治療の諸問題を議論するにあたり、当院での’00年代後半の症例をレトロスペクティブに検討した。

<対象と方法>当院で2006年9月から2009年12月までにSLNBを施行した513例を検討の対象とした。 同定法は色素、RIの併用で行い、T2以下のN0症例は原則SLNBを行い、またSLN転移陽性例には原則郭清を実施した。513例の内訳はTis 61、T1 279例、T2 159例、T3 14例であった。

<結果>SLN転移陽性例はTis 0/61(0%) T1 48/279 (17.2%) T2 49/159 (30.8%) T3 6/14(42.9%) であり全513例中103例(20.1%)に微小転移以上の転移を認めた。SLN陽性例のうち2個以上の転移を認めたものはT1 16/48(33.3%) T2 21/49(42.9%) T3 3/6 (50%) 計40/103(38.8%)であった。SLN転移陽性例のうちnon-SLNにも転移を認めたのはT1 13/48(27.1%)、T2 14/49(28.6%)、T3 3/6(50%) で計40/103(29.1%)であった。このうちACOSOG Z-0011試験適格例(T1又はT2、乳房温存例、SLN転移2個以下、)は57例で、このうち13例にnon-SLNに転移を認め(22.8%)、この割合はZ11試験の結果をはじめ諸家の報告に近い。

これら513例のうち、フォローアップが可能であった495例(平均観察期間5.0年)について、乳癌再発を17例(3.4%)に認め、他癌21例、癌以外の他病死2例であり、これらを合わせたevent を39 例(7.8%)に認めた。乳癌再発17例中11例に遠隔再発を認め、腋窩再発は4例(0.8%)であったが、腋窩単独再発が2例(0.4%)、胸壁、腋窩再発1例、遠隔再発に腋窩再発を伴うものが1例であった。この4例はいずれも初回手術でSLN転移陰性例であった。SLNBにて転移を認めた103例に関して、乳癌再発3例(遠隔2例、乳房内再発1例)を認め、他癌4例(卵巣癌2例、肺癌1例、皮膚癌1例)を認めたが、腋窩再発は認めなかった。

<結語>SLNB適応例の腋窩制御率が99%以上で、他癌の罹患率が4.2%である現実を踏まえると、腋窩治療の方法が、患者の生存率に対して現実的なインパクトを与える可能性は少なくQOL改善を念頭においた術式の採用が妥当と思われる。