質問3
質問3
乳がん検診についてお聞きします。私は三人姉妹の三女です。いちばん上の姉(33歳)が乳がんになったこともあって、年に1回ほど、乳がんの検査を受けるようにしています。ただ、私が受けているのは視触診だけで、長姉からは、それでは不十分だと言われています。 それで、マンモグラフィーを受けてみようと思っています。これは、具体的にはどのような検査で、有効性はどの程度あるのでしょうか。 また、20代にはマンモグラフィーよりエコー(超音波検査)のほうががんが見つかりやすいと聞いたことがあるのですが、本当でしょうか。エコーも受けるべきでしょうか。(26歳 女性)
アドバイス
乳がんに罹患するリスクの大きさを基にして乳がん検診の必要性は決めらますが、どこまで検診を行うべきかについては立場によって意見が異なってきます。個人のレベルでは最も質の高い検査を定期的に若いうちから行うことが望ましいと思われるでしょうし、行政の立場からすると、リスクの高い方に限って、できるだけ安価な検査で行うことが、税金の有効利用という観点からは正しい選択でしょう。
行政が行う乳がん検診は経済効率が重視され、通常40歳~50歳から検診をスタートさせます。ただ、乳がんの家族歴が濃厚な方は25歳から、視触診とマンモグラフィー(乳房をはさんでレントゲンを撮る検査)を年1回の頻度でスタートさせ、自己検診も徹底させ、場合によっては乳房のMRI検査を考慮するということがNCCNガイドライン(アメリカの代表的なガイドラインのひとつ)などには記載されています.
さてこの方が個人的に検診を受けられるという観点でアドバイスをするなら、まず診察した上で超音波検査とマンモグラフィーを行い自己検診法を指導します。そして1年毎に、視触診と超音波検査をお勧めします。20代後半の方で通常の体型だと、マンモグラフィーはよい写真が撮れないことと、放射線被爆の問題もあり超音波検査の方が適していると思われます。ただ体型や背景因子にも大きく左右されますから個別の対応が望ましいと思われます。
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質問4
質問4
5年前に左乳房の外上部に1センチの腫瘤が見つかり、乳がんと診断され、温存手術を受けました。病理検査の結果、リンパ節転移はなく、放射線治療は必要ないとのことで、ホルモン療法を受けてきました。手術後、最初の2年間はリュープリン(一般名 酢酸リュープロレリン)の注射を、3年目からは飲み薬のノルバデックス(一般名クエン酸タモキシフェン)を服用してきました。
手術前は生理がありましたが、手術後、リュープリンの注射を受けるようになってからはありません。今年の夏で、手術を受けてから5年経ちます。主治医からは「5年経過したら、ノルバデックスの服用を中止する」と言われています。再発の不安はいつも持っています。手術を受けて5年以上経てば、ノルバデックスを内服する意味はないのでしょうか。また、5年経過した後、再発を防止するために内服する薬や治療はないでしょうか。(長野県 48歳 女性)
アドバイス
詳細に関して不明な点もありますが、結論から申し上げるとホルモン療法を5年で終了し、経過観察でよいのではないかと私は考えます。1cmの腫瘍でリンパ節転移がなく、これまで5年間ホルモン療法をやっておられます。手術時43歳という年齢を考えれば放射線治療を追加することが標準的ですが、ここでの本題ではなく、また今更照射することはないのでこの問題は省略します。
この御質問をよく読んでみると、医学的な疑問というよりも、このまま何も治療することがなくなってしまうこと自体がご本人にとって不安なのではないかと思われます。そうしたお気持ちは良く理解できますし、そのような訴えを耳にする場面は実際に何度もあります。ただホルモン療法にも副作用、たとえば骨粗しょう症の進行や子宮体がんの増加などのデメリットもあるためむやみに治療を継続することが安心、安全なわけではないことを理解していただく必要があります。
一般的にはホルモン療法は5年間で終了することが標準的ですが、ノルバデックス終了後にさらにアロマターゼ阻害剤(商品名フェマーラなど)を追加すると再発率が低下するというデータもあります。このため実際の方針を決めるに際しては、腫瘍の病理学的な異型度やHER2蛋白の増幅の有無などの腫瘍の細かい条件を考慮した上で、ホルモン療法を継続することで得られるメリットとデメリットを総合的に判断する必要があります。手術後かなり時間がたっても治療法が変わるという節目には何かと不安な気持ちに襲われるものです。もう一度主治医と話し合って今後ホルモン療法を継続するにしても、治療を打ち切るにしても気持ちの整理をしておくことが必要でしょう。
2007年3月:雑誌原稿より
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質問5
質問5
2004年12月に左乳房の乳がんで、全摘手術を受けました。がんの大きさは1・7センチ、リンパ節転移はなく、悪性度はグレードは1、ステージは1a期で、ホルモン受容体は2+でした。2005年1月にノルバデックスとゾラデックス(一般名 酢酸ゴセレリン)のホルモン治療を受けました。 同年8月に子宮筋腫の手術を受け、子宮と卵巣を全摘しました。同年9月にはノルバデックスだけの治療を受け、2006年10月からはアリミデックス(一般名アナストロゾール)による治療に変わりました。お伺いしたい点は、腫瘍マーカーのCEAとCA15-3の数値についてです。次のような経緯を辿っています。
CEA | CA15-3 | ||
2005年 | 10月 | 2・0 | 4・7 |
11月 | 2・0 | 4・7 | |
2006年 | 2月 | 2・0 | 5・1 |
4月 | 1・9 | 4・5 | |
6月 | 2・3 | 4・8 | |
9月 | 2・2 | 5・1 | |
12月 | 1・4 | 6・3 |
主治医からは「正常値だから心配ない」と言われましたが、去年12月のCA15-3は微量ながら増加していて、不安です。また、「正常値でも4回も腫瘍マーカーが上昇するのはおかしい(何かある)」という医師のコメントを雑誌で読んだこともあります。心配ないでしょうか。また、何かすべきことはあるでしょうか。(東京都 47歳 女性)
アドバイス
結論から申し上げると腫瘍マーカーの数値は問題ありません。CA15-3の値は30程度までは正常で、それまで5であったものが突然15になっても意味はありません。このあたりは心配のしすぎとしかいいようがありません。物事に関してどんなに勉強して、知識を深めても実際の現場経験がないとわからないことは多々あります。
今回の腫瘍マーカーの推移に関しては現場経験のある人間からするとまったく問題ないと確信がもてます。ただそれを一般の方、特に再発の問題に過敏になっている人に心の底から理解してもらうのは難しいことです。こうした問題は患者さんの気質のみならず、主治医の説明の仕方、主治医の性格なども背景にはあるとおもいますが、あまり神経質にならず、おおらかな気持ちでデータを流すことも大事です。個人的にも神経質な患者さんにはあまり生データ(実際の細かい数値など)をお教えしない方がいいのではと思うこともあり、そのあたりの配慮をあえてすることもあります。もちろんそれが適切なことかどうかという議論はあると思います。
さらに話をすすめると、そもそも定期的に腫瘍マーカーを測定する必要があるのか、再発を早期発見しても患者さんの利益にならないのではないかという根源的な問題に突き当たります。いずれにしても、検査結果にあまり神経質にならず、なるようになるさというある種開き直った気持ちを持つこともこの病気と付き合っていく上で大事なんだろうと思います。
2007年3月:雑誌原稿より
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質問6
質問6
乳首(乳頭)から分泌液が出て、乳房に痛みとしこりを感じたため、病院に行って検査を受けたところ、乳頭腫(パピローマ)と診断されました。「良性の腫瘍なので、放っておいてよい」と言われましたが、心配です。本当に何の治療を受けなくても問題ないのでしょうか。また、がん化することはないのでしょうか。ちなみに受けた検査は、視触診とマンモグラフィー、それに細胞診です。(石川県 39歳 女性)
アドバイス
まず乳頭腫という診断が適切であれば、乳頭分泌などの症状が続かなければこのまま経過をみたのでよいと思われます。また一般的にはがん化するとは考えておらず、その意味でも特に切除してしまう必要はありません。ただ乳頭腫という診断をマンモグラフィー、エコーなどの画像診断と細胞診だけで確定させるのは意外に難しいものです。乳頭腫の組織像はいわゆる乳頭状病変といわれ、良性の乳頭状病変と悪性度の低い乳がんの乳頭状病変はしばしば病理の専門家でも意見が割れるぐらい鑑別が難しいこともあります。
このため100%確実な方法ということであれば、やはり腫瘍を摘出する手術を行うことになりますし、それに準ずる方法としては、マンモトームや太めの針で針生検を行い病理組織学的な診断を行うことになります。ただ現実の医療ではあまり疑わしくないしこりを全部手術で摘出したり、太い針を刺して調べることが正しいとも言えませんので、そのあたりの振り分けが臨床医としてのセンスの問題になります。ご本人が現状に不安をもっているのでしたらやはりもう一度担当医と話しあう必要があるでしょう。その上で、針生検またはマンモトーム生検を行うかどうか決められればよいと思います。
なおこの方の場合、しこりがあることを前提にお話をすすめましたが、もしエコーで明確な腫瘍がわからないなら、分泌している乳管を造影検査や内視鏡検査で調べることになります。またいくら良性でも乳頭からずっと分泌物がでるようなら日常生活に困るため腫瘍を摘出する必要がでてきます。この場合外科手術を行う場合もありますが、乳管内視鏡を用いて体に傷をつけずに摘出する方法もあります。
2007年3月:雑誌原稿より
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質問7
骨転移の治療中にゾメタが中止に。今後の治療は?
2004年12月、乳がんが発見されました。すでに脊椎に転移していて、まったく歩けませんでした。しかし、抗がん剤やアレディア(一般名パミドロネート)などの治療を受けて、歩けるようになりました。
06年1月に右乳房リンパ全摘出手術を受けました。それ以降、ゼローダ(一般名カぺシタビン)とアレディア(途中でゾメタ=一般名ゾレドロン酸水和物に変更)の治療を受けていましたが、去年の12月からゾメタは中止しました。現在はゼローダのほか、鎮痛剤、便秘薬などを服用しています。
胃、膵臓、腎臓、肝臓、肺などには今のところがんの転移はないが、PET検査などから顎の骨には転移しているだろうと言われています。右のわき腹、右の腰、右脚などに痛みがあります。
ゾメタを中止したことと関連して、次の3点について伺います。
①体全体の骨に何らかの変化が現れるでしょうか。
②がんが転移して、溶解した骨の部位の状態に何らかの変化が現れるでしょうか。
③骨転移が加速する可能性はありますか。
また、ほかに適切な治療法はあるでしょうか。(神奈川県 女性 75歳)
アドバイス
痛みや骨の変化が強ければ、リニアックによる放射線治療も
初めに、ゾメタという薬剤について整理しておきます。 ゾメタはビスフォスフォネートという系統の薬で、この系統の薬には骨吸収を抑制する作用があり、骨粗鬆症の治療薬として広く用いられています。なかでも点滴薬であるゾメタは作用が強力で、乳がんなどの骨転移や、がんに関連した高カルシウム血症の治療薬として用いられています。
アレディアはゾメタの一世代前の薬剤でかつては第1選択薬でしたが、ゾメタが保険適応になって以降はあまり使われなくなりました。
ゾメタには主に、骨吸収を抑制し、骨転移によって骨が強度を失うのを防止し、骨転移による骨折、痛みの頻度を減少させる作用があります。このため乳がんの骨転移と診断された時点で、通常はゾメタの点滴を4週に1回程度のペースで開始します。この治療はがんが進行していても使い続ける場合が多く、多くの患者さんで何年にもわたって使い続けます。
ゾメタに関する研究を見ると、ゾメタにはがんの進行を止める効果はなく、骨転移によって骨が溶けるのを予防する効果があると理解できます。このため中止しても、骨転移が加速することはなく、また、急速に骨が溶け始めることまでは考える必要はないと思います。変化はもっと緩やかで、2~3か月程度の中止では、骨の強度にはあまり影響ないと思います。
さて、質問内容からは、ゾメタを中止した理由が定かではありません。顎の骨に転移しているだろうと言われたようですが、ゾメタを中止したのは、転移ではなく、顎骨壊死を疑われたからではないかと推察します。
顎骨壊死は、まれではありますが、ビスフォスフォネートの重篤な合併症で、ビスフォスフォネートを投与中の人が抜歯などの処置を受けると起きやすくなると報告されており、もし抜歯が必要な場合は、原則としてビスフォスフォネートをしばらく中止してから行います。顎の症状なり検査所見が、骨への転移か、薬の副作用か明確ではないため、念のためにゾメタを中止したのだと思います。
ご質問の文面にはホルモン療法やハーセプチンに関する記載がないため、ER、PR、HER2のすべてが陰性のいわゆるトリプルネガティブといわれるタイプの腫瘍と推察されます。このタイプの乳がんは比較的、悪性度が高く、また薬物療法も抗がん剤中心にならざるを得ないため、治療の選択の幅が狭いことが難点です。今後は残された抗がん剤をタイミングよく使い、痛みや骨の変化が強ければ、リニアックによる放射線治療も考慮する必要があります。
また最近、メタストロン(一般名ストロンチューム89)という静脈注射用の放射性医薬品が保険適応となったので、この薬剤による痛みの緩和治療も選択肢に入ると思います。
2008年4月:雑誌原稿より
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質問8
乳房全摘後、抗がん剤治療を受けた。放射線治療も必要か
去年の7月に右乳房の乳がんと診断され、8月から約6か月間、術前抗がん剤治療を受けました。ホルモン受容体、HER2受容体は共に陰性でした。その後、右乳房の全摘出手術を受け、手術は成功しました。2個のリンパ節転移があると言われました。
今後は放射線治療を検討していると言われましたが、抗がん剤治療と全摘手術を受けたのに、まだ治療が必要なのでしょうか。抗がん剤治療の副作用がかなりきつかったこともあり、これ以上の治療には不安な気持ちがあります。この放射線治療は受けたほうがよいのでしょうか。受けた場合のメリットとデメリット(副作用や後遺症)などについて教えてください。(新潟県 女性 53歳)
アドバイス
放射線治療の適応があるなら、考慮してほしい
手術後の放射線治療は乳房温存手術とのセットで用いられるという印象が強いですが、乳房全摘手術後であっても、リンパ節転移が4個以上あったり、腫瘍が5センチ以上ある場合は、原則として胸壁に放射線照射を行います。こうした条件の患者さんは手術後の局所再発率が高いため、放射線照射を行ったほうが局所再発の防止とともに、生存率も向上するというデータがあるためです。
また最近は、リンパ節転移が1~3個の方でも放射線治療を行ったほうが治療成績の改善がみられるというデータも出ています。このため、今後はさらに乳房全摘後の放射線治療の適応が広がるかもしれません。なお、こうしたデータはまず手術を行うことが前提の話であり、術前に抗がん剤をやった方の場合はデータ不足で、これまでのデータから類推して治療法を考えることになります。
さて、この方の腫瘍もQ1の方と同様にER、PR、HER2のいずれもが陰性のいわゆるトリプルネガティブタイプで、比較的、悪性度の高いタイプです。もともとの腫瘍の大きさ、組織学的異型度、核異型度、化学療法にどの程度反応したかなどの基本的な情報が記載されておらず、この点からも放射線治療をすべきかどうかはお答えしにくいのが正直なところです。
放射線治療の功罪については、メリットとしては局所再発の予防と、10年生存率の改善が期待できるという点が挙げられます。デメリットとしては手術をした側の上肢のリンパ浮腫や、放射線性肺炎、皮膚の色素沈着や浮腫などが挙げられます。
これまで半年間、抗がん剤治療を行い、さらに手術をした後なので、精神的にも肉体的にも疲弊して、これ以上の治療は不安だという心情は理解できます。しかし、ご相談者のタイプの腫瘍の治療はホルモン療法もハーセプチンも適切でないため、放射線治療の適応があるなら、もうひとがんばりしてほしいと思います。
ご質問の内容とははずれまが、最近、乳がんは遺伝子発現プロファイリングにより、1つの病気ではなく、少なくとも次の5つの異なった病気の集合体と考えられるようになってきました。luminalA luminalB basal-like normal breast-like HER2 positiveの5種類です。
luminalタイプはホルモン受容体が陽性で、ホルモン剤に反応して経過が良好なタイプ、HER2 positive はたちは良くないが、ハーセプチンに反応するタイプ、basal-likeはホルモン剤もハーセプチンも効果がなく、あまりたちの良くないタイプです。basal-likeという分類はがんの遺伝子解析を行って調べなくてはなりませんが、トリプルネガティブ(ER,PR,HER2がいずれも陰性)と、われわれが呼んでいるものに概ね一致するようです
。 basal-likeは全体の10~20パーセントの頻度でp53やBRCA1に遺伝子変異が多いとされています。抗がん剤であるプラチナ製剤や、また抗EGFR抗体であるセツキシマブが今後の治療薬として期待されています。
なお、現段階ではリンパ節転移が陰性で、腫瘍径が小さいステージ1の患者さんもこのタイプの腫瘍の場合は、アドリアマイシン系とタキサン系の薬剤を併用した半年間の抗がん剤治療が術後補助療法として勧められています。
2008年4月:雑誌原稿より