高齢者の乳がん治療

高齢者の乳がん治療

若い人と効果は同じですが

 最近は、日本でも閉経後の乳がんが増加し、70代、80代の高齢で乳がんになる人も増えてきました。
 治療の考え方は、基本的には高齢者の場合も60代以下の人と変わりません。乳房に比べてがんが小さければ、乳房温存療法の適応になりますし、放射線照射も行います。術後には、再発予防のために、ホルモン感受性があれば、アロマターゼ阻害薬やタモキシフェンを用いたホルモン療法を行い、抗がん剤の適応と考えられればこれが実施されます。
 もちろん高齢者の場合、予備力の問題から副作用が出やすいということもあり、また何らかの持病があり、さまざまな薬を服用している人が少なくありません。がんだけではなく、持病の状態や、服用している薬とのかねあいにも十分に注意を払う必要があります。

残された人生と天秤にかけて

 ホルモン受容体が陰性で、ホルモン療法が行えないといった場合、高齢者でも抗がん剤による術後補助療法が必要なのか、あるいは高齢者が再発・転移を起こした場合、抗がん剤による強力な治療を行うべきなのかどうか、本人も家族も迷うところです。
 高齢者でも体力が十分あり、余命が十分期待できるなら、標準的な治療法は若い人とそれほど変わりません。しかし、持病の有無、心臓や腎臓など重要臓器の機能低下の有無、栄養状態、認知症の心配、経済的、社会的問題など高齢者の場合には配慮しなければならない問題が多数あります。さらにがんが完治したとしても余命が限られていることを考慮しながら治療プランを考えていく必要があります。

 再発・転移を起こした場合も、ホルモン受容体が陽性ならばホルモン剤を使うというのが、QOLの面でも一番効果的です。
 第一選択のホルモン剤は、術後補助療法で使っていないものです。タモキシフェンが効かなくなっていれば、アロマターゼ阻害薬、アロマターゼ阻害薬が効かなくなっていればタモキシフェンか、別の種類のアロマターゼ阻害薬を使います。
 抗がん剤の効果は若い人とそれほど変わりませんが、高齢者は副作用が出やすい傾向があります。そこで、抗がん剤の併用療法よりは、単剤で使うことがすすめられます。その場合も、副作用の出現には十分注意が必要です。
 高齢者の場合、体力なども個人差が大きいので、予想される副作用と延命効果などを主治医とよく相談しながら、治療方針を考える必要があります。

☆ コラム 腫瘍マーカーで再発転移は予測できるか

 腫瘍マーカーとは、がん細胞がつくり出す物質、またはがん細胞に反応して正常細胞がつくり出す物質のことで、血液中に含まれています。血液を検査して、その物質がどのくらい含まれているかを調べれば、体内にがんがあるかどうかを推測することができます。
 乳がんの場合は、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などが腫瘍マーカーとして使われています。ただ、多くの腫瘍マーカーは、正常な人でもつくられていること、早期のがんでは異常値にならないこと、転移があっても異常値を示さないことがあること、などの問題点があります。乳がんの再発、転移の診断時には5割くらいの人で腫瘍マーカーが上昇していますが、早期乳がんの場合はほとんど数値が上昇しないため、乳がんの早期発見には役立ちません。
 腫瘍マーカーが最も役立つのは、再発、転移をした乳がん患者さんの治療効果を判定するツールとしてです。治療前に上昇していた腫瘍マーカーが経時的に下がってくれば、治療は効果があると考え、逆に治療にも関わらず上昇してくれば、治療効果がないと判断できるわけです。
 腫瘍マーカーは、あくまでもほかの検査の補助的なものと考え、その数値の意味のない増減に一喜一憂することはやめたほうがよいでしょう。また、再発・転移があった場合も、早く見つけて治療をしても、症状があらわれてから治療を始めても、生存期間に変わりないので、術後フォローアップの際の検査として腫瘍マーカー検査を推奨しないということが、世界と日本の乳がんのガイドラインに明記されています。