若い女性の乳がん治療

若い女性の乳がん治療

術後療法をしっかりと

 乳がんは更年期ごろの女性に多く発症しますが、数は少ないながら、20代、30代の女性でも乳がんになる人はいます。若い人の場合は、がんの進行が早いのではないか、再発率が高いのではないか、将来の妊娠出産に問題はないのか、などいろいろ気になることがあります。
 若い人の乳がんは、ホルモン受容体が陰性であることが多いので、ホルモン療法が効かない人が多いというのが問題点の一つです。比較的再発率が高いトリプルネガティブ乳がんの頻度が高いため、全体として再発率が高い傾向があります。 35歳以下の乳がんを「若年性乳がん」といいますが、以前は再発のリスク因子の一つとされていました。しかし、現在は、リスク因子からはずされており、年齢自体が問題なのではなく、乳がんの性質や進行度が問題であると理解されています。
 また、家族に若くして乳がんになった人がいるか、母親、姉妹に2人以上乳がんの人がいるような場合は、遺伝的要素の強い「家族性乳がん」(○ページ参照)の家系である可能性もあります。その場合は、30代から乳がん検診を欠かさず受け、早期発見につとめましょう。

治療後半年たてば妊娠もOK

 乳がんの治療中は、ホルモン剤や抗がん剤を使うので、月経が止まることが多くなります。薬をやめれば月経が再開されますが、抗がん剤のタイプと年齢によっては生理がもどらないこともあります。
 薬物による治療中は、胎児への影響があるので、避妊が必要です。しかし、抗がん剤やホルモン剤の成分は、3か月、かなり慎重にみても半年もたてば体内からなくなるので、妊娠してもだいじょうぶです。若い人の乳がん治療に使われることが多いLH-RHアゴニストを使用した場合も、ふつうは使用を中止して半年から1年以内に月経が再開します。月経が再開すれば、妊娠も可能となったと考えてさしつかえありません。
 一方、若い人の乳がんはやや再発しやすい傾向があります。たちの悪い再発は、術後早期に起こることが多いので、万が一再発した場合のことを考えると、妊娠は手術後2年以上たってから考えたほうが安心という意見もあります。
 しかし、実際には、患者さんの年齢や人生設計によるでしょうし、元の病状にもよるでしょう。また術後のホルモン療法は5年間が標準ですから、いつまでそれを続けるかはやはり患者さんの年齢と再発のリスクをベースに考えていく必要があります。
 抗がん剤が予定されている場合は生理が永久に止まってしまう可能性があるため、抗がん剤をするかどうか、またどのような薬剤で行うかを妊娠出産希望の観点からも考える必要があります。また抗がん剤治療前に受精卵を凍結するような生殖技術も選択肢になりうるため、薬物療法を行う前に妊娠の問題を主治医とよく相談しておく必要があります。
 なお、乳房温存療法では、放射線照射が必須となります。放射線を照射した側の乳房は乳汁分泌ができなくなりますが、反対側の乳房で授乳できるのでこの点は安心してください。

妊娠と乳がん治療

妊娠初期の治療は困難

 若い人の場合、妊娠中に乳がんが見つかることもあります。その場合は、妊娠の時期が問題です。
 基本的に、乳がん治療に使われる薬は、妊娠中は使えない薬がほとんどです。特に影響か大きいのは、妊娠の前期(妊娠15週目まで)です。この時期は、胎児のいろいろな器官がつくられる時期なので、ホルモン剤や抗がん剤の影響で流産したり、胎児に奇形などの影響が出る危険が少なくありません。
 検査も、CTやMRIは胎児に悪影響があるので行えません。CTの場合は放射線が、MRIの場合は強力な磁場が胎児に影響をあたえます。手術の場合も、麻酔薬による流産の心配があります。
 妊娠や授乳は、体内のホルモン環境を変えるので、がんの進行や再発を心配する人がいるかもしれませんが、妊娠や授乳が、乳がんそのものを進行させるおそれはなく、再発の危険を高めることもないと考えられています。
 しかし、胎児のことを考えると、妊娠前期の場合、検査や手術、薬物療法、いずれも正常な発育に影響をあたえる可能性があるといえます。したがって、この時期に乳がんが見つかった場合は、胎児への影響が比較的少ない手術だけを行い、後の治療を妊娠中期以降に行うか、あるいは中絶するのか、という厳しい選択を迫られることになります。なお通常センチネルリンパ節生検の際に使われる青い色素は、催奇形性のリスクから妊娠中は禁忌とされ、アイソトープだけを使ってリンパ節生検を行います。

中期を過ぎれば治療も可能

 では、妊娠中期以降ならばどうでしょうか。
 この時期になると、ある程度使える薬も出てきます。ただし、女性ホルモンは妊娠と密接な関係があるので、ホルモン剤は妊娠の全期間を通して使えません。また、放射線治療や分子標的治療薬も、胎児に影響するおそれがあるので使えません。

 また、乳房温存療法を行った場合は、通常は放射線治療が必須となります。出産が終わってから放射線治療を行うという選択肢もありますが、治療の遅れを回避するためには乳房切除が無難と考えられています。
 術後の薬物療法も、妊娠中はホルモン剤は使えませんが、抗がん剤は適応があれば使うことができます。妊娠中期以降で、治療に抗がん剤を使う必要がある場合には、AC(アドリアマイシンとシクロホスファミド)、FAC(フルオロウラシル、アドリアマイシン、シクロホスファミド)など、胎児に影響をおよぼす可能性が低いとされる抗がん剤の組み合わせを使います。