トリプルネガティブ乳がん

トリプルネガティブ乳がん

トリプルネガティブ乳がんの典型的所見(核異型度:グレード3 組織異型度:グレード3)

 

トリプルネガティブ乳がんの免疫染色パターン

トリプルネガティブ乳がんの免疫染色パターン ER(-) PgR(-)  HER2(-) 高Ki67

初めに

トリプルネガティブ乳がんはエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2蛋白の過剰発現をいずれも認めないがんのことです。これらはがんの増殖がホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)やHER2蛋白に依存していないことを示しています。そしてトリプルネガティブ乳がんはホルモン剤、HER2蛋白受容体をターゲットにした薬剤には効果がありません。トリプルネガティブ乳がんは乳がん全体の15%程度を占めています(日本)。

トリプルネガティブ乳がんとは?

細胞の受容体は細胞内や、細胞表面にある特殊な蛋白であり、これらの受容体蛋白は細胞のいわば目や耳に相当するものです。正常の乳腺細胞の内部や表面にあるホルモン受容体はエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンから情報を受け取ります。ホルモンから見ると、これらは細胞にある受容体と結合し、細胞が増殖などの機能を果たす指令を提供することになります。70%程度の乳がんがホルモン受容体が陽性であり、ホルモンが増殖に関与しています。

一方で、15%くらいの乳がんにおいてHER2蛋白が過剰発現しています。正常の乳腺細胞においては、HER2は細胞の増殖を刺激する働きがあります。乳がん細胞においてHER2蛋白が過剰にある時は、細胞は非常に早く増殖し、分裂することになります。ホルモンの働きやHER2を標的にした治療(標的療法)では、エストロゲン、プロゲステロン、HER2蛋白の効果を減弱させ、乳がん細胞の増殖を遅らせ、停止させます。

トリプルネガティブ乳がんの特徴

トリプルネガティブ乳がんのは他の乳がんに比較してよりアグレッシブで、予後不良であり、これらはトリプルネガティブ乳がんを標的とする治療薬が少ないことが関与しています。トリプルネガティブ乳がんは転移を起こす確率、再発する確率が他の乳がんより高いことが知られています。

トリプルネガティブ乳がんはがんのグレードが高く、多くはグレード3です。また多くがベーサル様細胞(これは乳管の基底膜細胞様という意味)と言われており、ベーサルタイプ乳がんは進行が早く、より悪性度が高い乳がんです。ベーサルタイプの乳がんの多くが、トリプルネガティブ乳がんで、またトリプルネガティブ乳がんの多くがベーサルタイプという関係になっています。

どういう人がトリプルネガティブ乳がんに罹る傾向があるか?

誰でも罹る可能性はありますが、以下のような特徴があります。
1) 若い方~50歳以下の方
2) 黒人、ヒスパニック系の方~アジア人は比較的少ないとされています
3) BRCA1遺伝子に変異がある方(遺伝性乳癌卵巣癌)

トリプルネガティブ乳がんと診断された場合

乳がんの中でもより悪性度が高く、治療標的(ホルモン受容体、HER2蛋白)が限られていると告げられるとより衝撃は大きいと思います。しかしながら冷静にこの二つの標的が欠けている(ホルモン受容体とHER2蛋白)だけだというように、冷静に捉える必要があります。病期(ステージ)やがんのグレードも一方で重要な要素になります。また、ホルモン療法と抗HER2療法以外にもいくつかの治療法があることを理解しておくことが重要です。

トリプルネガティブ乳がんの治療について

トリプルネガティブ乳がんの治療は通常、手術、放射線治療、抗がん剤治療で行われます。がん剤治療は、しばしば手術の前に行われます(数か月間の外来治療)。抗がん剤が先に行われ、手術の結果がんの組織が完全に消失する場合が30~50%に見られ(pCRという言い方をされます)、このような効果が得られた場合は完治できる可能性が高いと期待できます。

PARP inhibitors(商品名リムパーザなど)

HER2蛋白の過剰発現がなく、遺伝性乳がん(BRCA1またはBRCA2に病的変異あり)の場合はこの系統の薬剤が期待できます(相同組換え修復関連遺伝子変異を有する患者さんに効果が期待できると表現されます)。

免疫療法(商品名テセントリックなど)

免疫療法(テセントリック:アテゾリズマブ)が進行再発乳がんでPD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに適応となっています。テセントリックは化学療法薬であるアブラキサンと併用して用いられます。

免疫チェックポイント阻害剤であるこの薬剤は、がんが免疫システムを回避するのを助けるPD-L1蛋白を標的にした薬剤です。PD-L1を阻害することでテセントリックは免疫システムががん細胞を見出し、排除することを可能にする薬剤です。