治療方針を決めるための検査

がんの乳房内の広がり診断に役立つ造影MRI検査

 乳がんと診断されると、次には治療方針を決めたり、手術の方法を決めるために、MRI(磁気共鳴画像診断装置)やCT(コンピュータ断層撮影)による画像診断が行われます。
 いずれも、造影剤を点滴しながら、検査を行います。MRIは狭いトンネルの中に入るため、圧迫感を感じる人もいるかもしれません。
 CTは、X線で人体を輪切りにして撮影し、内部の状態を見る検査です。輪切りと輪切りの間に小さながんがあるような場合には見つけにくいのが難点でしたが、最近ではヘルカルCTが普及し、らせん(ヘリカル)状に体を撮影していくので、小さながんも発見できるようになりました。高速で頭の先から爪先まで撮影ができ、画像が精密なのも利点です。がんの広がりを見ることもできるので、手術の範囲を決める場合にも役立ちます。
 MRIは、磁気を利用して、タテ、ヨコ、ナナメ、好きな方向から人体の断面をとらえることができます。造影剤(ガドリニウム)を利用することで、かなり正確に乳がんの位置や広がりをとらえることができるようになっています。CTとMRIではMRIの方がより解像度が高いため、乳房内の広がり診断としては通常造影MRIが選択されます。

そのほかの検査

骨シンチグラフィ

 骨転移の有無を調べる検査です。放射性同位元素(アイソトープ)を血管に注入し、特殊カメラでアイソトープの集積した部位をとらえます。アイソトープは骨の再生が活発に行われている部位に集まるので、骨に転移しているかどうかがわかります。ただし、骨折や炎症でも骨の再生は活発になるので、アイソトープが集積したからといってがんとは限りません。

腫瘍マーカー

 がんに関連する特殊な物質を測定して、がんの有無や量を推定する検査です。主に血液中の物質が測定されます。
 乳がんの場合は、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などの腫瘍マーカーがありますが、臓器転移を起こさないと上昇しないことがほとんどなので、早期診断には役立ちません。

PET-CT(ポジトロンCT)

 PETは、全身のがんをチェックできるのが利点です。がん細胞は活発に分裂するため、エネルギー源としてブドウ糖を大量に消費します。そこで、FDGというブドウ糖に似た物質を注射し、その分布からがんをとらえます。ただし、1cm程度の大きさがないととらえられないため、乳がんの場合は転移診断や他の病気の除外診断を目的に利用されます。また炎症を起こした部位や脳は、ブドウ糖の消費が激しいので、がんとの鑑別がむずかしいといった欠点があります。

[コラム] 乳がんと似た病気、まちがいやすい病気

 乳房のシコリやひきつれ、乳頭からの分泌物、といった症状があると、つい乳がんを疑ってしまいがちですが、しかし、乳がんと似た症状を示す病気は意外に多いのです。

乳腺炎@にゆうせんえん@

 乳腺が細菌感染によって炎症を起こし、赤くはれたり、痛み、うみ、シコリなどが見られます。授乳期に乳頭部が傷ついて起こる場合と、授乳には関係なく起こる場合があります。いずれも抗生物質で治りますが、炎症性乳がんもよく似た症状を起こすので、注意が必要です。

乳腺症<にゆうせんしよう>

 30代から40代の女性に多く、乳房にシコリや痛み、はれ、ときには乳頭部から透明な分泌物が出ることもあります。乳がんを心配して病院を受診する人の多くがこの状態です。乳腺症はホルモンのアンバランスが原因といわれ、特に治療の必要はありません。症状は月経に連動して強くなったり弱くなったりをくり返すことが多く、閉経<へいけい>すると軽快<けいかい>していきます。がんとは関係のない変化ですが、乳がんのシコリを見落とす危険もないとはいえないので、正確な診断のためには乳腺専門のクリニックなどへの受診が必要です。

線維腺腫<せんいせんしゆ>

 20~30代の若い女性に多い良性のしこりです。乳房に固くてクリクリしたシコリができ、触るとよく動きます。針生検で確実に診断できれば特に治療の必要はありませんが、2~3センチを越えて大きくなるようならば、手術で摘出することも考慮されます。葉状<ようじょう>腫瘍というやわらかいシコリをつくる特殊な腫瘍との鑑別が必要になることもあります。

葉状腫瘍

 楕円<だえん>形のやわらかいシコリで、乳腺組織を構成する間質細胞から発生します。2~3カ月で急に大きくなることが多く、中には悪性のものもあるので、きちんと診断を受けましょう。葉状腫瘍と診断されれば、1cm程度の幅の正常の乳腺組織で腫瘍を包み込むようにして切除します。
 このほか、乳頭から血液まじりの分泌物が出る乳管内乳頭腫<にゅうかんないにゅうとうしゅ>という病気もあります。これは、乳管の中にポリープのようなできものができる病気です。乳がんでないことを確実に診断することと乳頭分泌を止める目的でしばしば腫瘍が摘出されます。
まれに乳房に原発する悪性リンパ腫や肉腫系の腫瘍もありますが、乳房にできる重要な病気は乳がんだけと考えていただいて問題はないと思います。

葉状腫瘍のマンモグラフィー写真