手術後の補整具や下着

乳がん手術後の補整具や下着は、患者が身体的、精神的な快適さを維持し、日常生活に戻る上で非常に重要な役割を果たします。手術後の傷や体型の変化に対応し、さらに術後の回復をサポートするため、適切な補整具や下着を選ぶことが求められます。乳房切除術(全摘出術)や乳房温存術を受けた後、補整具や下着を選ぶ際に考慮すべきポイントについて、以下で詳しく説明します。

1. 乳がん手術後の身体の変化と補整具の役割

1.1 乳房切除術後の変化

乳房切除術を受けた患者は、乳房を一部または全体を失うため、身体の外見が大きく変わります。この変化に対処し、日常生活に戻るために、補整具が重要な役割を果たします。補整具を使用することで、左右の乳房のバランスを整え、服のフィット感を改善し、心理的な安定感を得ることができます。

1.2 乳房温存術後の変化

乳房温存術を受けた場合、乳房は部分的に残りますが、形が変わることがあり、左右のバランスが崩れることがあります。この場合も、専用の下着や軽度の補整具を使用することで、バランスを整え、体型を整えることができます。また、術後の傷や感覚の変化に対しても、柔らかくサポート力のある下着が必要です。

1.3 補整具の目的と役割

乳がん手術後の補整具は以下の役割を持っています。

  • バランスを整える:乳房の形や大きさが変わった後、補整具は左右の乳房のバランスを調整し、自然な外見を作り出します。
  • 服のフィット感を改善:補整具を使用することで、術前と同じように服が体にフィットしやすくなります。
  • 心理的な安心感:身体の変化に対する不安を軽減し、自信を持って外見に向き合う助けとなります。

2. 乳がん手術後の補整具の種類

乳がん手術後に使用される補整具にはさまざまな種類があり、患者の状況に応じて選択されます。以下に主な補整具の種類とその特徴を説明します。

2.1 一時的補整具

一時的補整具は、手術直後の回復期間に使用される柔らかい素材の補整具です。通常はコットンやフォームなどの軽い素材で作られ、手術後のデリケートな肌を保護し、傷口に負担をかけないように設計されています。この補整具は、体が完全に回復するまでの間に使用されるものであり、軽くて肌に優しいのが特徴です。

特徴

  • 術後すぐに使用可能。
  • 傷や肌に優しい柔らかい素材。
  • 軽量で、圧迫感がない。

2.2 永久補整具(シリコン補整具)

永久補整具は、体が完全に回復した後、長期間使用される補整具です。これらは、シリコンやウレタンなどの素材で作られ、自然な感触と見た目を提供します。シリコン補整具は、乳房切除後の乳房を再現し、手術前と同じような体型に戻すことができます。

特徴

  • 見た目が自然で、触感も本物の乳房に近い。
  • 水泳やスポーツなど、日常のあらゆる活動に対応可能。
  • サイズや形状が多様で、患者個別のニーズに合わせて選べる。

2.3 部分補整具

部分補整具は、乳房温存術を受けた患者向けで、部分的に失った乳房の形や大きさを補うために使用されます。このタイプの補整具は、乳房のバランスを微調整し、左右の不均衡を整えるために効果的です。

特徴

  • 部分的な乳房の欠損に対応。
  • 自然な形を維持し、左右のバランスを調整。
  • 軽量で、日常的な使用に適している。

3. 術後に適した下着の選び方

乳がん手術後の下着選びは、快適さとサポート力が重要です。術後の傷や感覚の変化に対応するため、特別に設計された下着が推奨されます。以下は、手術後に適した下着の特徴です。

3.1 柔らかい素材と優しいフィット感

手術後の肌はデリケートで、傷口や放射線療法による肌の影響が残ることがあります。そのため、術後の下着には、柔らかい素材(コットン、シルクなど)が使用され、肌に優しく、摩擦が少ないものを選ぶことが重要です。また、フィット感がきつすぎず、軽く体を包み込むデザインのものが推奨されます。

特徴

  • シームレスで肌に優しい素材。
  • ワイヤーなしで圧迫感がないデザイン。
  • 調節可能なストラップでフィット感を調整可能。

3.2 補整具対応のポケット付きブラ

多くの術後ブラジャーには、補整具を簡単に挿入できるポケットが付いています。このデザインにより、補整具がしっかりと固定され、日常生活でのズレや不快感を防ぎます。ポケット付きブラは、シリコン補整具や一時的補整具のいずれにも対応しており、患者にとって使いやすい設計です。

特徴

  • 補整具用のポケットが内蔵されており、自然な形を維持。
  • 安定感があり、ズレにくい。
  • フルカップデザインで、しっかりとサポート。

3.3 フロントホックブラ

フロントホックブラは、手術後の腕の可動範囲が制限されている患者に適しています。術後すぐは、腕を大きく動かすことが困難なため、背中でのホックの着脱が難しくなります。フロントホックブラは前開き式のため、着脱が容易で、術後の回復期に特に有用です。

特徴

  • 前開きで、着脱が容易。
  • 圧迫感が少なく、傷を刺激しない。
  • 調節可能で、快適なフィット感を提供。

4. 術後の下着選びで考慮すべきポイント

4.1 サポート力と快適さのバランス

術後の下着は、適度なサポート力がありつつ、快適さを重視する必要があります。特に、手術後の早期段階では、乳房や胸部のサポートが必要ですが、圧迫しすぎない設計のものを選ぶことが大切です。柔らかいカップやワイヤーなしのデザインが推奨されます。

4.2 デザインと機能性

術後の下着は機能性が重視されますが、見た目も重要な要素です。多くのメーカーは、機能性とデザインを両立したおしゃれな下着を提供しており、患者が術後も自信を持って下着を選べるようになっています。明るい色やレースデザイン、洗練されたスタイルのものも多く、気分を高める要素としても機能します。

4.3 サイズ調整の可能性

術後の体型は変化することが多いため、サイズ調整が可能な下着を選ぶことが推奨されます。調整可能なストラップやホックがある下着は、体型の変化に対応し、常に快適なフィット感を保つことができます。また、補整具のサイズやタイプに合わせて、ブラのサイズも適宜調整することが大切です。

5. 術後の生活と補整具・下着の選び方の重要性

5.1 心理的サポートとしての補整具

乳がん手術後の補整具や下着は、単に身体的なサポートだけでなく、患者の心理的な安定を支える役割も果たします。身体の外見が変わった後、適切な補整具や下着を使うことで、自信を取り戻し、日常生活にスムーズに戻ることができます。補整具は、患者の選択肢を広げ、自己肯定感を高める重要なツールとなります。

5.2 日常生活への復帰を支援

適切な補整具や下着を選ぶことで、乳がん手術後の生活の質(QOL)を向上させることができます。患者は、自分の体にフィットする補整具を使うことで、体型を気にせずに外出したり、社会活動に参加することが可能になります。また、スポーツや水泳など、アクティブな生活を楽しむための専用補整具も存在し、日常生活の幅を広げることができます。

6. まとめ

乳がん手術後の補整具や下着は、患者の身体的な回復をサポートするだけでなく、心理的な安定や日常生活の質を向上させるために非常に重要です。手術後の体型変化や感覚の変化に適応するためには、個々の患者に合った適切な補整具や下着を選ぶことが求められます。術後の回復段階に応じて、柔らかい一時的補整具から自然な見た目を提供する永久補整具まで、さまざまな選択肢があります。さらに、補整具に対応した専用下着を選ぶことで、患者は快適に日常生活を送ることができ、手術後の生活をより自信を持って過ごすことが可能となります。


手術後の補整具や下着

材質も形も豊富

現在は、乳がんの手術を受けた人のために、さまざまな補整具や扱いやすい下着が発売されています。上手に利用して、手術後もおしゃれを楽しむようにしましょう。
補整下着は、見た目の美しさもさることながら、乳房の手術によって変わった体のバランスをととのえるという意味でも、効果的です。アンバランスのままにしていると、腰痛や背中の痛み、肩こりなどの原因になることもあります。
パッドは、内側にポケットのついたブラジャーと組み合わせて使います。素材も、ウレタン、シリコン、綿などがあり、汗をかいてもかぶれにくい素材を使ったものなどもつくられています。形も、体型にあわせて脇にふくらみをもたせたいときに使うものや、鎖骨の下からふくらませるものなど、いろいろなものがあります。重さも、軽いものから、乳房と同じ重さのものまであります。
乳がん手術を受けた病院には、たいていパンフレットがありますから、自分で調べたり看護師に訊いてみましょう。インターネットでも情報を得ることができます。その上で、実際に身につけてみて、装着感や見た目を試して購入することが大切です。たいていは既製品で間に合いますが、オーダーメードでもつくることができます。

用途にあわせて

パッドを入れるブラジャーは、肩ひもが太く安定感があり、アンダーバストもソフトで強くしめつけない、あるいは前開きで着脱しやすいなどの工夫がしてあります。ふつうのブラジャーにもポケットがついたものがありますが、補整下着はパッドを入れたときにも安定してズレにくくなっています。また、素肌に直接装着するタイプのシリコンパッドや、水泳用に水分を吸収しにくいパッドもあります。

水着も、乳がんの手術を受けた人のために、首回りや袖ぐりが詰まっていて傷口が見えないもの、パッドもしっかりフィットしてずり落ちないものなどが市販されています。水泳は、手術後のリハビリや体力回復にも適した運動なので、こうした水着で楽しく泳いでください。