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トリプルネガティブ乳がんの術前療法後に腫瘍が遺残した場合、カペシタビン(ゼローダ)を追加するべきである

トリプルネガティブの患者さん、特に手術前に化学療法を行ったにもかかわらず残存病変がある患者さんは再発のリスクが高く、追加治療が必要かどうかは多くの治療医の悩みでした。

数年前、CREATE-X試験(日本・韓国)の結果が示されたとき多くの専門家は驚きました。ホルモン受容体陽性またはトリプルネガティブの患者さんに関わらず腫瘍が術前化学療法によって遺残した場合、ゼローダを追加することで再発率が低下することが有意に示されたからです。この結果は当初懐疑的にみられていましたが、その後に発表された2つの欧米での研究により、追加のゼローダの有効性が示され現在はこのゼローダの追加がトリプルネガティブ乳がんにおいて推奨されるようになりました。次もこれに関する話題(データ)です。

トリプルネガティブ乳癌における術前補助化学療法後にプラチナ製剤をルーチンに使用することのメリットはない

 プラチナ製剤は、ベーサルサブタイプのトリプルネガティブ乳癌の術前化学療法後(腫瘍の遺残がある場合でも)の転帰を改善せず、カペシタビン(ゼローダ)と比較して重篤な毒性を伴う。本試験の参加者は、治療法にかかわらず3年間の浸潤性無再発生存率が予想よりも低く、この高リスク集団に対するプラチナ製剤の追加は解決策にならないことが示された。(ECOG-ACRIN EA1131試験 2021年6月26日号JCO)

<コメント>ベーサルサブタイプのトリプルネガティブ乳癌に対するプラチナ製剤の有効性への期待はこれまで高かったわけですが、現在のところ追加効果は否定的なようです。術前療法で腫瘍が遺残した場合の選択肢はカペシタビンというこれまでの実臨床に変更はないと理解されています。

OlympiA試験の結果(PARP阻害剤:オラパリブの効果を評価した第三相臨床試験の結果) 

標準的な補助療法に1年間のオラパリブを追加することで、高リスクのBRCA関連早期乳がんにおける3年間の浸潤性無病生存率と遠隔無病生存率が改善されました。この研究は臨床を変え得る結果であり、より長いフォローアップで全生存率も改善される可能性があります。 2021年6月アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)から

対象患者

BRCA1/2生殖細胞系遺伝子変異を伴う高リスクの早期HER2陰性乳がん患者さん

主な試験結果と治療の毒性

主要な結果については、プラセボと比較して、術後補助療法として追加されたオラパリブは、プラセボと比較して、浸潤性無病再発(すなわち、局所再発、転移性再発、他の新しい癌)のリスクを42%減少させました(P <.0001)。 3年後の浸潤性無病生存率は、オラパリブで85.9%、プラセボで77.1%であり、絶対差は8.8%でした。

副作用はオラパリブの安全性プロファイルと一致しており、試験中に新たな安全性に関する徴候は現れませんでした。 オラパリブは、入院、白血病、または他の癌を含む重篤な有害事象の発生率を増加させませんでした。 オラパリブでより一般的なグレード3以上の有害事象には、貧血、白血球数の減少、倦怠感などがありましたが、その発生率は低かったと報告されています。