HER2陽性の乳がんの治療

HER2陽性乳がん 

HER2 陽性乳がん

HER2 陽性乳がん(免疫染色)

HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) は乳がんの進展に関わる遺伝子です。病理レポートには必ずHER2の結果が記載されており、HER2が個別の患者さんの乳がんにおいて重要な役割を担っているかどうかを知ることができます。乳がんに関わる遺伝子とそれに対応する蛋白を知ることにより、がんがどのように振る舞い、特定の治療にどのように反応するか予想することが可能となります。

20年以上前にトラスツズマブが臨床導入されたことで、HER2陽性乳がん患者の予後は劇的に改善された。特に早期乳がんについては予後が大きく改善され、大部分の症例に対して化学療法と抗HER2療法の併用が実施されている。抗HER2療法を2剤用いる併用療法(dual-HER2 blockade)は、リンパ節転移陽性例の予後を改善することが示され、トラスツズマブとペルツズマブの併用療法が行われている。また術前化学療法において浸潤癌が遺残し場合はT-DM1を追加することの効果がKATHERINE試験で示され、海外では標準治療とみなされているが現時点では日本では保険適応となっていない(2020年7月)。一方治療のデ・エスカレーションも重要なテーマで、早期がんあるいは高齢者にはより副作用の少ないパクリタキセルとトラスツズマブの併用療法が用いられている。

HER2陽性乳がんの最新動向について(進行再発乳がん治療 2020年)

HER2陽性乳がんの領域では最近(2020年)4つの新薬がアメリカFDAに承認されるなど、大きな進歩を遂げています。

1987年にHER2受容体が注目された当初、HER2受容体は、他の乳がんのサブタイプと比較して、予後が最も悪いとされていました。現在では、トラスツズマブに続き、ラパチニブ、ペルツズマブ、アド・トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)、ネラチニブが登場したことで、HER2陽性乳がんの予後は最も良好なものとなっています。

アジュバントで化学療法にトラスツズマブを追加することで、全生存率が37%相対的に改善し、10年生存率は75.2%から84%に上昇しました。同様の効果は、転移性の治療においても認められています。2020年、FDAはHER2陽性乳がんに対する4つの新しいHER2治療薬(トラスツズマブ デルクステカン (DS-8201)、ツカチニブ、ネラチニブ、マルゲツキシマブ)を承認しました。

1)トラスツズマブ・デルクステカン

DS-8201)は、現在利用可能な他の抗HER2薬よりも有望である。

2)新しいカテゴリーのHER2低値の乳がんにも、トラスツズマブ・デルクステカンのような新しい選択肢がもうすぐ使えるようになるかもしれない。  

3)ツカチニブとネラチニブは、HER2-陽性乳がんで脳神経系に転移した患者のための、最新かつ最良の治療薬です。

4)免疫療法と CDK4/6 阻害剤は、 HER2 陽性疾患の治療において、 ますます大きな武器となるでしょう。

マルゲツキシマブ

トラスツズマブと同じHER2エピトープ(エピトープは、抗原決定基とも呼ばれ、免疫系によって認識される抗原の一部である)に対する新規の抗体であるが、トラスツズマブとの違いは、ナチュラルキラー細胞やマクロファージに存在するCD16A Fc受容体への親和性が向上していることと、トラスツズマブに比べて抑制性のCD32B受容体への親和性が低下していることである。この設計は、自然免疫の強化を目的としています。

2020年12月16日、米国食品医薬品局(FDA)は、化学療法と併用するマルゲツキシマブを、2種類以上の抗HER2レジメンの前治療を受け、そのうち少なくとも1種類が転移性疾患に対する治療であった転移性HER2陽性乳がんの治療薬として承認しました。根拠となったSOPHIA試験は無作為化臨床試験で、患者は、マルゲツキシマブと化学療法を併用する群と、トラスツズマブと化学療法を併用する群に割り付けられました。統計的には有意であったものの、PFSの改善が少なかったことから、本試験は現時点では標準治療を変えるものではないとされています。

ネラチニブ

ネラチニブは不可逆的な汎HER(HER1、HER2、HER4)チロシンキナーゼ阻害剤で、初期の試験ではカペシタビンとの併用で有効性を示し、特に中枢神経系の転移に対する治療に有効であることが示されました。これを受けてNALA試験が開始されました。NALA試験は、過去にHER2をターゲットにした転移性乳がんレジメンで少なくとも2回治療を受けた、HER2陽性の転移性乳がん患者を対象に、ネラチニブ+カペシタビンと、可逆的デュアルTKIであるラパチニブ+カペシタビンを比較する、無作為化第III相試験でした。この結果が有意だったため、neratinibは2020年2月にFDAより、2種類以上の抗HER2ベースのレジメンを受けたことのある進行・転移性のHER2陽性乳がん患者の治療薬として、カペシタビンとの併用で承認されました。

ツカチニブ

強力かつ選択的なATP競合型の経口投与可能なHER2阻害剤であり、in vitroではEGFRに対してHER2に対して約500倍の選択性がある。これにより、ネラチニブのような特異性の低いHER2 TKIよりも良好な毒性プロファイルが得られることが期待された。ONT-380とも呼ばれる本剤は、HER2+乳がんにおけるトラスツズマブ抵抗性に関連すると考えられている切断型HER2(p110/p95)のリン酸化も有意に阻害する。

第III相HER2CLIMB試験(トラスツズマブ+カペシタビン±ツカチニブの比較)が実施されました。脳転移のある患者では、1年後の進行のない生存率は、ツカチニブ併用群で24.9%、プラセボ併用群で0%であった。

これらの素晴らしいデータの結果、2020年4月、アメリカFDAは、脳転移を有する患者を含む、切除不能または転移性の進行したHER2陽性乳がんで、転移期に1つ以上の抗HER2ベースのレジメンを投与された患者を対象に、トラスツズマブおよびカペシタビンとツカチニブの併用療法を承認しました。

トラスツズマブ デルクステカン (DS-8201)

トラスツズマブ デルクステカンは、HER2を標的とするトラスツズマブと細胞障害性のトポイソメラーゼ阻害薬のデルクステカンを結合させた抗体薬物複合体です。HER2 陽性の再発・転移性乳がん患者への二次治療を対象としたトラスツズマブ デルクステカンの第3相臨床試験(DESTINY-Breast03)の中間解析において、主要評価項目が達成されたと発表されました。この試験は、トラスツズマブとタキサン系薬剤による前治療を受けたHER2陽性の再発・転移性乳がん患者約500名を対象としたグローバル第3相臨床試験であり、本剤投与群がT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)に対し、統計学的に有意かつ臨床的意義のある改善を示したと結論付けられました。

HER2陽性乳がんに対する術前療法について

手術可能なHER2陽性乳がんを対象とした術前療法の初期研究では、化学療法にトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加することでpCR率(がんが顕微鏡レベルで消失する割合)が有意に上昇することが示されました。 その後、HER2を標的とした治療法を単独または化学療法と組み合わせて評価した結果、化学療法との併用が依然として重要であることが示され、HER2を標的とした治療法と化学療法の併用で最も高いpCR率が得られました。

HER2療法が標準治療として取り入れられるようになると、アントラサイクリン系薬剤の必要性が疑問視されるようになりました。 さらに、低リスクのHER2陽性乳がん患者に対する治療強度を落とす戦略や、術前療法後に残存病変がある患者に対する補助療法の追加についても評価しています。<つづく 2021年9月5日>

 

The Okura Tokyo Aug. 2021