ER(+) HER2(-) 転移性乳がんの最新治療

ER(+) HER2(-) 転移性乳がんの最新治療(作成中 2023年6月)

参照文献 CA Cancer J Clin. 2023 Mar 20. doi: 10.3322    Huppert LA et al   Systemic therapy for h ormone receptor-positive/human epidermal growth factor receptor 2-negative early stage and metastatic breast cancer

 ESMO Open. 2023 Apr;8(2):100882. Gombos A et al   How I treat endocrine-dependent metastatic breast cancer

エストロゲン受容体陽性/HER2陰性(HER2-)はルミナルタイプと呼ばれ最も頻度が高く、全乳がん患者さんの約70%を占めています。

最適な術後補助療法を行っても、5%~25%の患者さんで再発がみられます。再発のリスクは主に臨床的、組織学的、生物学的要因に依存しています。また一部の患者さんはde novo転移性乳がん(ステージIV)として診断されます(最初の診断時に遠隔転移あり)。転移性乳がんは依然として不治の病であり、治療の目標は生存率の向上だけでなく、生活の質(QOL)の維持、症状の緩和、患者さんの希望を考慮することなどの要素も重要です。内分泌療法とサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤の併用は、病変の広がりに関係なく、進行したルミナルタイプ乳がんの管理における標準的な第一選択です。一般的には内分泌抵抗性が生じ、緩和化学療法が提案されるまで、患者さんはホルモン療法±標的治療の複数ラインの治療を受けることになります。腫瘍組織または循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA, ctDNA)の次世代シーケンス技術を使用した遺伝学的な腫瘍の特性は、治療決定の指針となります。これからルミナルタイプ・転移性乳がんの治療法について,最近アメリカで承認された治療薬と臨床開発が進んでいる薬剤に焦点を当てながら,利用可能な選択肢(一部日本国内未承認)について説明していきます。

CDK4/6阻害剤を使用する際に考慮するべき点(国際的には3剤、日本では2剤のみが使用可能

CDK4/6阻害剤(パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ(日本未承認)と内分泌療法の併用は、いくつかの第III相試験の結果に基づき、ルミナルタイプ転移性乳がんの標準治療となっていますが、これは2000年以降の乳がん治療の代表的進歩の一つと考えられています。現在のガイドラインでは、すべての臨床試験で認められた臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)改善効果、いくつかの臨床試験で認められた全生存期間(OS)の改善効果、管理可能な毒性プロファイル、QOLの維持または改善に基づいて、すべての転移性ルミナル乳がん患者さんにCDK 4/6阻害薬による治療を推奨しています。なおリボシクリブ、アベマシクリブは有意なOSベネフィットが観察され(HR 0.72-0.76)ていますが、パルボシクリブを使用した2つの第III相試験では、有意なOSベネフィットは認められていません。これについては対象患者さんの問題なのか、薬剤の本質的なもんだいなのか、現在のところは明らかではありません。

現時点での内分泌バックボーン薬剤(併用するホルモン療法剤を何にするかという問題)の最適な選択、投与順序は不明と考えられています。

生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有するルミナルタイプの患者では、オラパリブやタラゾパリブのようなPARP阻害剤を考慮すべきであるが、PARP阻害剤とホルモン剤±CDK 4/6阻害剤の最適な投与順序は明らかではありません。CDK4/6阻害剤によるOSベネフィットを考慮すると、PARP阻害剤の前にCDK4/6阻害剤を推奨すべきと一般には考えられています。

<続く>