乳がんの進行期と性質
早期がんはⅠ期まで
乳がんの治療法は、がんの進行期と乳がんの性質によって決まってきます。
以前は、進行期が治療法を決める要@かなめ@でしたが、現在は乳がんの個別化治療が進み、乳がんの性質がより重視されるようになっています。
表のように、乳がんはシコリの大きさとリンパ節転移の有無、遠隔臓器への転移があるかどうかで、8つのステージに分類されています。
0期は乳腺内にとどまるがんで、「非浸潤がん」と呼ばれます。シコリが2センチ以下でリンパ節転移がないのがⅠ期です。ここまでを早期がんということもあります。
Ⅱ期は、シコリの大きさとリンパ節転移の有無でⅡA期とⅡB期に分かれます。Ⅲ期は局所進行がんです。シコリの大きさが5・1センチ以上で、脇の下のリンパ節に転移があるのがⅢA期です。B、C期は、シコリの大きさと関係なく、どの部位のリンパ節に転移があるか、がんが皮膚などに食い込んでいるかどうかで決まります。
Ⅳ期は、肺や骨など遠くの臓器に転移している状態です。
個別化治療とがんのサブタイプ
一方、現在、治療の上で注目されているのは、がんの性質をあらわすサブタイプという分類です。
分子レベルでがんの研究が進んだ結果、乳がんは遺伝子レベルで5つのタイプ(型)に分かれることがわかりました。ただ遺伝子検査は煩雑で実用的でないため免疫染色を用いて簡便に5つのサブタイプに分類することが一般的になっています。この分類により薬物療法の効果を予測できるようになりました。
ホルモン療法は、エストロゲン受容体が陽性ならば、効果があります。分子標的治療薬のトラスツズマブは、HER2@ハーツー@受容体が陽性ならば効果があります。
ルミナルA型は、ホルモン療法は効くのですが、HER2受容体が陰性なので、分子標的治療薬のトラスツズマブは効かないタイプです。がんは、元の細胞に近い顔をしている(高分化型)ほどタチがよいといわれます。ルミナルA型は分化度も高く、全般的にがんとしてはおとなしいタイプといわれています。乳がん患者さんの約5割はこのルミナルA型に分類されます。
これに対して、ルミナルB(HER2陽性)型はどの治療も効果が期待できます。といえば、非常に治りやすくみえますが、薬物治療がなければ成績の悪いタイプですが適切な治療で成績は良くなりました。ルミナルB(HER2陰性)型はルミナルA型に似ていますが、がんの増殖能が高く、再発率が高く、抗がん剤が有効という特徴を持ちます。ルミナルAとBはKi67という増殖マーカーのスコアで分類します。14%以下がA型、14%より高値をB型と分類しています。(2011年3月ザンクトガレン国際会議)
HER2陽性のタイプは、以前は非常にタチが悪いといわれていましたが、いまはこのタイプに効くトラスツズマブができたので、かなり治療成績がよくなりました。
問題は、どの受容体も持たないトリプルネガティブ型です。このタイプは、ホルモン剤もトラスツズマブも効かないため、治療がむずかしい乳がんといわれています。しかし、現在、世界中でこのトリプルネガティブの乳がんを何とかしようと研究が進んでいます(●ページ)。
進む個別化治療
前述の細胞増殖に関与するKi67というタンパクの発現量は、乳がんの悪性度を見る指標になるとともに、抗がん剤の効果予測に役立ちます。がん細胞の分化度なども、がんの性質を知る大きな手がかかりです。閉経前か閉経後か、リンパ管や血管に浸潤しているかいないか、脇の下のリンパ節転移があるかどうか、などもがんの性質を知る重要なポイントです。
こうした性格から、乳がんをこまかく分類し、それぞれに合った治療法や治療薬を選択するのが、乳がんの個別化治療です。特に、遺伝子によるがんの解析が進み、今後ますます細分化されていくものと思われます。
自分のがんはどのタイプなのか、治療を受けるにあたってきちんと理解しておきましょう。
(乳がん進行期、サブタイプ図表)