リンパ浮腫のケア

リンパ浮腫のケア

腋窩リンパ節郭清が原因

 乳がん手術の後遺症として、もっともよく知られているのが「リンパ浮腫@ふしゅ@」です。
 リンパ浮腫は、脇の下のリンパ節郭清@かくせい@をした人に起こる症状です。センチネルリンパ節生検をして、腋窩リンパ節の郭清が必要ないと診断された人にはほとんど起こりませんが、まれに生検だけでもむくむ人がいるので、注意は必要です。
 リンパ節は、リンパ液が流れるリンパ管の関所のようなものです。これを郭清して切除すると、リンパ液の流れが悪くなりますが、特に腕の先から肩に向かう流れが悪くなります。そのため、リンパ管から漏出@ろうしゅつ@したリンパ液が腕にたまり、むくんでいくのです。
 といっても、リンパ節郭清をした人のすべてがリンパ浮腫になるわけではありません。データによってバラツキはありますが、5~25%といわれています。ふつうは、リンパの流れを助けるバイパスができるからです。
 最初は、腕が何となくはれぼったいが、特に痛みはない、といった程度ではじまることが多いのですが、そのまま放置していると、腕から手にかけてパンパンにむくみ、日常生活に支障をきたすほどになることもあります。感染症を起こして、突然真っ赤になり、発熱することもあります(蜂窩織炎@ほうかしきえん@)。
 いったんひどくなると、なかなか治りにくいので、予防につとめることが大切です。

マッサージと弾性スリーブ

 手術後、手術した側の肩や胸、背中などがはれぼったくなるのは、手術のせいで、それは次第に治まっていきます。しかし、腕回りが1センチ以上太くなったら、リンパ浮腫の可能性が高いと考えてください。
 早期発見のためにも、手術前から腕回りをはかっておくといいでしょう。はかるのは手首とひじの少し下、ひじの少し上の3カ所です。治療効果を見るのにも役立ちます。
 リンパ浮腫の予防と治療は、マッサージと弾性スリーブ(サポーター)の装着が基本です。
 リンパの流れは、完全に遮断されているわけではないので、マッサージでリンパの流れを助けてあげます。これが「リンパドレナージ」です。マッサージは、強くやりすぎると逆効果なので、自分の手で、下から上に皮膚をなで上げます。リンパ浮腫の治療を専門にした医師やトレーニングを受けた看護師、理学療法士に正しい方法を指導してもらいましょう。
 運動して筋肉を動かすことも、リンパの流れを助けてくれます。例えば肩の上下運動や肩回し、腕を広げて深呼吸をするような動作、腹式呼吸は効果があるといわれています。手で握ったボールに力を入れたり抜いたりするような簡単な運動でもいいのです。弾性スリーブをはめた状態でも、運動をしましょう。さらに、感染を防ぐために、保湿クリームを塗ることも忘れないでください。

(運動のしかた・イラスト)(弾性スリーブの図)

リンパ浮腫と日常生活の注意点

浮腫を悪化させない注意

 乳がんの手術を受けた人は、程度の違いはあっても、何らかの違和感や症状を抱えることが少なくありません。
 その大半は手術によるもので、時間の経過とともにやわらいできます。しかし、リンパ浮腫によるむくみや、神経を傷つけたことによる腕のしびれや感覚の低下は、長く患者さんを悩ませる原因となります。
 神経痛のようなキリキリした痛みや鈍痛がつづき、日常生活の妨げにもなるような場合には、ペインクリニックという痛み専門の治療を行っている施設で相談してみましょう。
 また、リンパ液はたまるほど、解消するのも大変になります。今日の分は今日のうちに流すという気持ちで、毎日根気よくマッサージをつづけることが大切です。入浴後のマッサージも、効果的です。寝るときは抱き枕に腕を乗せる、休むときはひじ掛けに腕を乗せるなど、腕を下に降ろしっぱなしにしないようにしましょう。重いものを長い時間持つのも避けましょう。
 もし、むくみがあまりにひどい場合は、手術という方法もありますが、その効果は個人差が大きいようです。
 さらに、日常生活でも、浮腫を悪化させない注意が必要です。

日焼けやけがをしない

 リンパ節は、細菌など、外部からの異物の侵入をくい止める免疫の拠点でもあります。そのため、リンパ節郭清をした人は感染しやすい状態にあります。
 日常生活でも、できるだけケガをしたり、細菌感染の起こりやすい状態を避けなければなりません。炎症を起こすと、リンパの流れが悪くなり、またむくみがひどくなるからです。そのためには、

●ひどい日焼けをしない
●爪のささくれをつくらない
●土いじりやガーデニングのときは必ずゴム手袋を装着し、終わったら石鹸で手を洗う
●虫刺されをできるだけ防ぐ
●患部の側の腕には時計や指輪をしない、

 といった注意が必要です。これは、一生つづける必要があります。万が一、腕が赤くはれたり、発熱した場合には、すぐにかかりつけ医へ行きましょう。蜂窩織炎@ほうかしきえん@といって、腕に炎症が広がっているかもしれません。このときはマッサージもやめて、診察を受けるまでの間は腕を冷やします。通常は抗生物質が処方され、経過をみることになります。
 また、肥満しないことも大切です。脂肪がリンパ管を圧迫して流れを妨げるからです。

疲れないようにする

 リンパ浮腫の患者さんの多くは、引っ越しや人の介護など、何かのきっかけでむくみがひどくなることがあります。リンパ浮腫には、疲れも大敵です。多少わがままと思われても、「根をつめない」「無理をしない」という精神で、まず自分の体を考えて生活することが必要です。