頭皮冷却療法(その1)

抗がん剤による脱毛を防ぐ「頭皮冷却療法」について (虎の門病院 乳腺内分泌外科)

乳がん術後補助化学療法中のAさんの毛髪(ddAC⇒wPTX:後半7サイクル目:脱毛が最も進んだ時期)

Aさん:補助化学療法終了から1月半後の頭皮(再び毛髪が生えてきてかつらなしで出勤も可能に)

 頭皮冷却療法の現状

頭皮冷却療法は2019年3月に厚生労働省により薬事承認され、2021年版の「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン」でも推奨され、科学的根拠のある治療法として推奨されている。

頭皮冷却療法は、乳がんの術前・術後補助化学療法にまず導入された。現在(2022年)、保険外診療として全国約50カ所の病院で導入されているが、外来で普通に選択肢として提供できている病院は少ないと思われる。

虎の門病院では2021年8月にこの技術が導入され、半年で26名の患者さんに利用されている。現在3台目の機器が導入され、同時に最大で6名の方に実施することが可能になった(1台の機器で2名の患者さんに同時に使用可能)。

イギリスで開発

 脱毛を防ぐ方法があれば、抗がん剤治療を受けることへの抵抗感も減るのではないだろうか。そんな期待から生まれた頭皮冷却療法は、1997年にイギリスで装置のプロトタイプが開発された。

 頭皮冷却療法のメカニズムは、頭にヘッドギアをかぶり、その中にマイナス4℃に冷やした液体を還流させることで、血管を収縮させて頭皮の血流を減少させるというものである(頭皮の接触面は18°C程度に冷却)。抗がん剤は点滴で血管を通して全身に運ばれる。その結果、毛根の細胞にまで抗がん剤が効いてしまうために、脱毛が起こる。頭部を冷やして血液の循環を低下させることで、抗がん剤が届かないようにする。

 ビールを冷やす技術を応用

 装置を開発したイギリスのメーカー「Paxman」は、元はビールサーバーの冷却システムを造っていた会社だ。会長の妻が乳がんになり、化学療法を行ったことがきっかけで、頭皮冷却の装置を開発した。ビールサーバーの経営者、家族の乳がん治療がきっかけという歴史は非常に興味深く、関わった方の必死の思いが伝わってくる。

2017年には、米国で行われた二つの比較試験(ベイラー大学とカリフォルニア大学)で、頭皮を冷却した患者の過半数が50%以下の脱毛にとどまったというデータが米国医師会雑誌(JAMA)に掲載され、欧米で頭皮冷却療法の本格的な導入が世界で始まった。

 ◇ウィッグが不要になる方も~少なくとも毛根のダメージを最小限に

頭皮冷却療法を行えば、完全に髪が抜けないというわけではない。30~50%程度の脱毛は必ず起きると考えた方が無難である。しかし、冷却しない場合は抗がん剤投与後2~3週間で髪の毛がほぼ完全に抜け落ちる。このことは両者の毛根のダメージに大きな差があることを意味し、回復期に一定の差が出ることが予想される。

『脱毛がある程度で止まっているということは、抜けたところの毛根のダメージも少ないため、回復が早い。それがこの治療のメリットでもあります」

化学療法(ddACx4サイクル)終了時点のAさん

乳がん術後補助化学療法中のAさんの毛髪(ddAC⇒wPTX:後半7サイクル目:脱毛が最も進んだ時期)

乳がん補助化学療法(dose dense ACx4回→毎週パクリタキセルx12回)終了後1か月後のAさんの毛髪

Aさん:補助化学療法終了から1月半後の頭皮(再び毛髪が生えてきてかつらなしで出勤も可能に)

 治療中に毛が生えてくる

 抜けてしまっても、次の毛が生えてくる立ち上がりが速いことも大きい。抗がん剤投与が終わり、毛髪が生えてくるまでをフォローしたを見ると、かなり脱毛しているが、抜け切るまではいかず、抗がん剤が終わって1カ月程度でかなり発毛が進んでいるのが分かる。

 一方、頭皮冷却をしない場合、抗がん剤が終わった段階で完全に毛髪が

無くなり、1カ月後でもあまり変わらない。3カ月後にようやく頭皮が見えない程度にはなるが、脱毛後の回復に要する時間は長い。また、脱毛した後、3年たっても、一部の患者さんは元の状態まで回復せず(20%程度の患者さんに脱毛の問題あり)、薄毛、脱毛、白髪、くせ毛などの問題を抱えているとの報告もある。

 「完全に脱毛してしまうと生えそろうまでに、かなり時間がかかってしまい、3カ月後くらいでも、まだベリーショートくらい。この段階で、ウィッグを外す勇気がある人はあまりいません。頭皮冷却を行った患者さんでは髪が、抗がん剤投与中に生えてくることを我々は経験しており、早いタイミングでウイッグが外せることを期待しています」 

頭皮冷却による脱毛軽減のご案内

医の最前線 「頭皮冷却療法」 時事通信社のサイトより

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